2015年9月18日金曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10085 不服審判 拒絶審決 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成27年9月17日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 田 中 芳 樹
裁判官 柵 木 澄 子

「 1 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴」等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産又は使用の方法又は時期その他の特徴を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品の識別力を欠くものであることによるものと解される。
 そうすると,本件審決時において,本願商標がその指定商品に使用された場合に,将来を含め,指定商品の取引者,需要者によって商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産又は使用の方法又は時期その他の特徴を表示したものと一般に認識されるものであり,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるときは,本願商標は商標法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。
2 本願商標について
(1) 本願商標の構成
 本願商標は,前記第2の1(1)のとおり,「雪中熟成」の文字を標準文字で表してなる商標であり,「雪中」の文字と,「熟成」の文字とを結合して一連表記した商標である。
 そして,本願商標は,上記のとおりの外観を有することから,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということができる。
(2) 「雪中」「熟成」の語義
 本願商標を構成する「雪中」の語義について, 乙1の1(広辞苑第六版)には,「雪が降る中。雪の積もった中」と記載されていることが認められる。また,本願商標を構成する「熟成」の語義については,乙1の2(広辞苑第六版)には,「蛋白質・脂肪・炭水化物などが,酵素や微生物の作用により,腐敗することなく適度に分解され,特殊な香味を発すること。なれ。」と,乙3の1(大辞泉増補・新装版)には,「魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され,特殊な風味・うま味が出ること。発酵を終えたあとそのままにし,さらに味をならすこともある。なれ。」と,それぞれ記載されていることが認められる。・・・
3 本願商標の商標法3条1項3号該当性
(1) 前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「雪中熟成」の語は,本件審決当時,「雪の中で熟成すること」等の意味合いを有する語として,本件指定商品の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定商品に使用されたときは,「雪の中で熟成された商品」といった商品の品質又は生産の方法を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるものであり,自他商品の識別力を欠くものというべきである。
 そして,本願商標は,前記2(1)のとおり,「雪中熟成」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」

【コメント】
 この高部部長の合議体は,商標法3条1項3号の趣旨が,①独占使用に不適,②識別力なし,の両方にあると判示しております。これは古くの判例(最高裁昭和54年4月10日)に依拠しているものと思われます。

 他方,今回の原告が主張しなかった商標法3条2項によりますと,「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」と規定され,②の識別力がつけば,登録できるとされているわけです。

 本件では,問題となっている商標が H25.4.23の出願と比較的最近であるためか,原告は,上記のとおり,商標法3条2項の主張をしておりません。
 しかし,仮にそのような主張をして,長くの使用などにより実際識別力が生じたような場合はどうなのでしょうか? 
 そのような場合は,条文とおり,登録できるはずです。
 ですが,本来,①の独占使用に不適なものは,いくら識別力がついたからと言って登録が許されるものではないはずです。 これは公益的な理由なのですから。

 私はいつもここでよくわからなくなるのですが,法律の条文と上記の最高裁の考えは矛盾していると思っています。
 仮に矛盾しないようにと考えると,独占使用に不適なものも,使用により徐々に不適じゃなくなるとしなければいけなくなります。広い世の中にそういうこともあるかもしれません。
 ですが,このこと自体も大いなる矛盾です。
 独占使用に不適ものが,使用により不適じゃなくなるということは,独占使用できるようになったってことです。そうすると,そもそも独占使用に不適なものって何なのでしょうか?そんな基準自体不要です。
 赤信号皆で渡れば怖くない,ではありませんが,独占使用不適な商標も,構わず使用し,他の使用者を何らかの方法で蹴散らし,結果として独占使用できれば登録できるということです。
 個人的には,3条1項各号と3条2項を矛盾なく説明するためには,3条1項各号については,①の独占使用に不適なものなどという性質は外して考えた方がいいのではないかと思う次第です。