2015年9月8日火曜日

侵害訴訟 著作権 平成24(ワ)9838 大阪地裁 請求棄却


事件番号
事件名
 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成27年8月27日
裁判所名
 大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美奈子
裁判官 大 川 潤 子

「1 争点(2)について
(1) 社交飲食店の経営者が通信カラオケ装置を店舗内に設置して,著作権者の許諾を得ないまま,同装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を演奏,上映し,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなどして,その営業に利用する場合には,社交飲食店の経営者が演奏権又は上映権を侵害している行為主体というべきであるところ,別紙記載の一部店舗において期間等について争いがあるものの,訴外会社からリースを受けたカラオケ装置を用いて原告の管理著作物を利用していた別紙記載の各店舗の経営者は,みな原告からその許諾を得ていなかったというのであるから,少なくともこれらの者が訴外会社からリースされたカラオケ装置を使用して著作権侵害行為をなしていたことは明らかなことということができる。
 そして,カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である(最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決・以下,この判決を「平成13年判決」という。)から,別紙記載の各店舗の経営者によって著作権侵害に使用されたカラオケ装置をリースしていた訴外会社は,上記注意義務に違反していのたであれば,これによって,別紙各店舗の経営者による著作権侵害行為を幇助する不法行為をなしていたということができる。
(2) 原告は,訴外会社の代表者であった被告が,訴外会社が設立された平成14年6月19日の当初から,その業務全般を支配しており,同日以降,訴外会社をしてリース業者として条理上負うべき前記注意義務を履行させるべき立場にあったことから,被告が訴外会社をして,著作権侵害を生じさせる蓋然性の極めて高いカラオケ装置を,原告との間で著作物利用許諾契約を締結させ又は原告に対してその申込みをしたか否かを確認しないまま次々と顧客である社交飲食店に引き渡しさせたとことが不法行為を構成する旨主張し,また被告自ら又は従業員をして,社交飲食店の経営者に対し,著作権料は支払いたい人だけが支払えばよいなどと,虚偽の説明をして,訴外会社との間で,カラオケ装置のリース契約及び情報サービス提供契約を締結するよう勧誘し,また,契約申込書に実際のカラオケ装置の設置日より遅い年月日を記入するなど,カラオケ装置を設置してから著作物利用許諾契約締結までの間の著作物使用料相当額の支払を免れる方法を指導することなどの点でも著作権侵害の不法行為を構成する旨を主張している。
 確かに,被告が訴外会社の設立以降,代表取締役への就任の有無にかかわらず,同社の業務に従事して経営上の決定をしていたということからすると,代表取締役に就任していない期間を含めて,被告は訴外会社をして上記注意義務を履行させるべき地位にあったといえるが,後記認定の事実関係からすると,被告は訴外会社をして上記注意義務を履行させていたと認められないし,また被告自らでないとしても,主張にかかるような従業員による不当な勧誘や指導がなされていた事実が全く認められないわけではないところ,これは訴外会社の経営方針を反映するものと推認され,その意味では訴外会社の経営を決する被告が無関係とはいえないから,これらの点からすると,被告には管理著作物の著作権について直接侵害者となる別紙の各店舗の経営者による不法行為についての幇助者ないし教唆者として共同不法行責任が成立することは免れそうにないということができる。
(3) しかし,被告が破産免責を受けていることからすると,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるためには,その損害賠償請求権が単なる不法行為に基づくものではなく,「悪意で加えた不法行為に基づく」もの(破産法253条1項2号)であることが必要であるところ,以下に検討するとおり,本件において被告に成立が認められ得る不法行為をもって「悪意で加えた不法行為」というには足りないというべきである。
 なお,原告は,破産法253条1項2号にいう「悪意」を単なる故意と同義であると主張しているが,同項3号に,「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」とあることに鑑みると,同項2号の「悪意」が「故意」と異なる内容を含むことは明らかであって,したがって「悪意」とは単なる「故意」を超えた,権利侵害に向けた積極的な害意を意味するものと解するのが相当である。
・・・
ウ 要するに訴外会社ひいては被告の行為がいかに非難に値しようとも,それは他者の利益を顧みずに自らの利益を図ったということにすぎず,そのような行為の結果として無許諾店舗に経営者による原告の管理著作物についての権利侵害が起きようとも,これをもって,原告の権利侵害に向けた積極的な害意,すなわち破産法253条1項2号にいう「悪意」があるとは認められないというべきである。・・・
(6) したがって,本件では,被告が「悪意をもって加えた不法行為」をしたものと認めることができないから,これに基づく損害賠償請求権も認められない。」

【コメント】
 著作権法というよりも破産法の話と言ってよいでしょう。そして,至る所で勝ち判決を取っている原告のJASRACが珍しく負けていることにも注目です。

 まず,被告は破産免責を受けています。世上,いわゆる破産を行うのは,これを得ることが目的です。これを得ると,ある一部の例外の請求権を除き, 責任(借金のこと)を免れることができます(破産法253条)。
 その例外の一つが,ここで問題になっている「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」です。要するに,さすがに免責されると言っても,これまで免責させるのは,価値判断的に疑問あり!とされるようなものです。

 他方,本件で問題になっているものは,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権です。
 さて,上記の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」ですが,単なる「不法行為に基づく損害賠償請求権」でないことに注意しなければなりません。つまり,この「悪意」の意味です。

 これに関しては,破産法が大改正される前から,故意を越えた害意とするのが通説です。コンメンタール(弘文堂のもの)によると,最高裁まではないようですが,下級審は,ほぼこの害意で一致しております。 

 本件でも,普通の故意か過失はあったろうけど,害意まで認めることはできないとして,免責の効果を破ることはできなかったようです。
 なお,訴え提起から判決までかなりの時間が経過しておりますが,これは訴訟係属中に破産の手続きが行われ,中断したためと思われます。