2015年10月1日木曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10008 不使用取消審判 不成立審決 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成27年9月29日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清 水 節
裁判官 片 岡 早 苗
裁判官 新 谷 貴 昭

「 1 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)ア 被告は,自らはイヤホンの製造及び販売を行わず,専ら,イヤホン製造業者や納入業者に対し,特許や意匠等を提供してその製造及び販売のライセンスを許諾することを業とする会社である(甲2)。
イ 被告は,平成21年6月1日,韓国に所在するクレシン社との間で,本件ライセンス契約を締結した(甲21)。本件ライセンス契約には,以下の条項が含まれている(日本語訳)。・・・
ウ 以上からすれば,被告は,本件ライセンス契約に基づいて,クレシン社に対し,C型イヤプラグに関する技術(付属書2で特定されたもの。)若しくは,欧州特許第EP1410607B1(これを変更したり拡張したりするものも含む。)又はその組合せを形にした技術(改良されたものも含む。)を適用した,音楽プレイヤーなどと有線又は無線で接続できるイヤホン等(付属書3)を製造販売等することを許諾し(1.2条,1.3条,1.4条,1.6条,2条),また,クレシン社は,本件ライセンス契約に基づいて,製造販売等する製品に,「Freebit(マルR)技術に基づくものである。」との記載をする義務を負担している(4条)ものと認めることができる。
(2) クレシンジャパン社は,クレシン社のグループ会社である日本法人であるが(甲4),平成21年11月12日,オーディオテクニカ社との間で本件購入契約を締結した。同契約には,オーディオテクニカ社が発注する仕様書で定める仕様に適合する特定の製品をクレシンジャパン社が製造,販売,出荷し,オーディオテクニカ社が当該製品を購入・納入することが定められている(甲22)。
 また,クレシンジャパン社は,平成24年6月5日,オーディオテクニカ社との間で本件覚書を締結した。同覚書には,クレシンジャパン社が,金型を使用し,「ATH-CKP500Series製品」をオーディオテクニカ社に納入する旨が記載されている(甲23)。
(3) クレシンジャパン社の担当者は,平成23年11月22日から平成24年4月6日までの間,クレシンジャパン社がオーディオテクニカ社に対してイヤプラグを付属するイヤホンを販売するに当たって,被告のデザイナーと調整しながら,前記「ヘッドホンをあしらったと思しき図形」のロゴの使用について,また,被告の希望を聴取した上で,特許ライセンスに関する表示について,オーディオテクニカ社の担当者と協議した(甲25)。
(4) オーディオテクニカ社は,平成24年7月19日に,使用商品1の発売を開始した。使用商品1のパッケージには,赤地に白抜きの文字で「FREEBITSTYLE(前者がやや太字で表されている。)」「選べるフィット感 新形状“FREEBIT”採用」の表示,及び,被告からデザインの提供を受けた商標とほぼ同態様の「ヘッドホンをあしらったと思しき図形と共に白色で書されたFREEBIT(マルR)」の表示がある(甲8の1ないし3,甲9,甲11の1及び2,甲12ないし14,甲15の1及び2の1,甲20)。
 また,オーディオテクニカ社のウェブサイトの同商品に関するウェブページには,「運動中も快適な装着感をキープする3サイズの“FREEBIT”採用」などの説明や,テクニカルデータの項に「●付属品:CKP500専用フリービットS,M,L」の記載があり,さらに,同商品の取扱説明書の「フリービットについて」の項には,「本製品にはS,M,L,3サイズのフリービットが付属されており,お買い求め時はMサイズが装着されています。/よりよい装着のために,耳のサイズや収まりに合わせてフリービットを交換し,ご使用ください。」などの記載と共に,左右一対の「イヤプラグ」の形状の図が表示されている(甲8の1ないし3)。
2 取消事由1について
(1) 上記認定のとおり,本件ライセンス契約によれば,被告からクレシン社に対し許諾対象とされている技術は,C型イヤプラグに関する広い範囲のものであって,その技術を用いた製品は,有線であるか無線であるかを問わないことからすれば,使用商品1は,本件ライセンス契約の許諾対象技術を用いた製品であると認められる。また,クレシン社は,本件ライセンス契約に基づいて,許諾対象技術を用いた製品に,「Freebit(マルR)技術に基づくものである。」と記載する義務を有していること,本件商標を使用することは禁じられていないこと,使用商品1に「FREEBIT」の表示をするに当たっては,クレシンジャパン社は被告側と連絡をとりながら検討していること,事後的にではあるが,被告が,オーディオテクニカ社による「FREEBIT」の使用は自らの許諾による本件商標の使用のであると認めていること(甲19)からすれば,オーディオテクニカ社が販売する使用商品1に対する「FREEBIT」の表示は,被告の許諾に基づいてなされたものであると認めることができる。
(2) これに対して,原告は,①本件ライセンス契約は,特許及びノウハウの実施のみを対象とし,本件商標の使用許諾をするものではなく,むしろ,本件商標の使用を排除している,②オーディオテクニカ社は,本件ライセンス契約に基づく特許技術を用いている旨の表示義務を怠り,同契約に違反しているのであるから,同契約は存続していない,③オーディオテクニカ社の製品はワイヤレス機能を有しないから,ワイヤレス機能を持つイヤホンに限定された本件ライセンス契約の対象たる特許発明を用いておらず,本件ライセンス契約の範囲に属しない,④オーディオテクニカ社には本件商標の使用意思がなかったことを理由に,オーディオテクニカ社の使用商品1に関する「FREEBIT」の表示は,被告の許諾に基づいてなされたものであるとはいえない,と主張する。
 しかし,上記①については,本件ライセンス契約においては,「ラインセンシーが製造・販売した当該製品の全ての単位に,ライセンシーの自社プランド,又は,ライセンシーの顧客が有するブランドを付すことができる。」(4条)と記載され,ライセンシーが自らの商標等を使用することを排除していないとはいえるが,ライセンシー等の商標と被告の有する商標を共に使用することは観念できるから,本件商標の使用を禁止するものではないことが明らかである同契約は,むしろ,許諾対象技術について「FREEBIT(マルR)」と表示することを義務付けている(4条)のであるから,本件商標の使用をも視野に入れていると解される。
 上記②については,本件ライセンス契約は,被告とクレシン社との間で締結された契約であるから,クレシン社のグループ会社であるクレシンジャパン社と本件購入契約等を締結したオーディオテクニカ社において,仮に本件ライセンス契約に違反するような事実があったとしても,それが直ちに本件ライセンス契約の終了をもたらすものとはいえず,むしろ,被告は,オーディオテクニカ社による「FREEBIT」表示の使用を自らの許諾によるものである本件商標の使用であると認めているのであるから,本件ライセンス契約が存続していることは明らかである。
 上記③については,本件ライセンス契約においては,許諾対象技術は同契約において特許番号をもって特定された特許に限られず,それに関する技術を広く含むものであり,かつ,契約当事者もワイヤレス機能を持たない使用商品1が本件ライセンス契約に基づいて製造販売されたものであると認識しているのであるから,ワイヤレス機能を持たないことを理由に使用商品1が本件ライセンス契約に基づいて製造販売されたものではないとはいえない。
 上記④については,オーディオテクニカ社の販売する使用商品1において,被告の特許発明を実施していないことや,同社が,米国において販売した商品を含め,使用商品1以外に「FREEBIT」の表示を使用していなかったことは,必ずしもオーディオテクニカ社の本件商標の使用意思を否定する根拠となるものではない。
(3) よって,取消事由1は,理由がない。」

【コメント】
 特許ライセンス契約を初めとして,技術的なライセンス契約中に,ライセンサーの商標の取り扱いを盛り込むことはよくあります。
 この場合,絶対使用禁止!とにかく使っちゃダメ!とするのはむしろ少数です。多くの場合,これこれこういう態様だったら使ってもいいよ~という限定的で消極的な許容を示すのが普通です。
 仮に積極的な許容をしてしまうと,それこそ商標のライセンスとなりますので,ライセンサーの知財の戦略を超えてしまうと思われます。他方,全く使わせないと,ライセンサーの宣伝にはなりませんので,ブランド戦略上, これも旨味がないわけです。

 ということで,技術的なライセンス契約でも,商標使用の限定的で消極的な許容があることがデフォ―になっております。
 今回,そういう前提で,このような限定的で消極的な許容を受けただけの者も,商標法50条に言う「通常使用権者」に当たるかどうかが問題になったわけです。
 で,知財高裁は,このような場合であっても通常使用権者に当たるとしたわけです(正確には,そういう審決の判断の是認ということですが。)。
 実務的に若干迷いそうなところについて,ある程度確かな判断が出ましたので,参考になると思います。