2015年12月14日月曜日

審決取消訴訟 特許 平成27(行ケ)10042 不服審判 拒絶審決 請求認容


事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成27年12月10日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 田 中 芳 樹
裁判官 鈴 木 わ か な

「4 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
⑴ 相違点2について
 本願発明と引用発明との間には,相違点2,すなわち,カルシウム含有層が,本願発明では,「実質的にポリマーを含まず,かつ,該顆粒の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない」と特定されているのに対して,引用発明では,「粒子の一部が露出した状態で固定されている」と特定されているという相違点が存在する。そして,前記1⑵イのとおり,本願発明の上記特定に係る「該顆粒」は,個々の顆粒を指し,「実質的にポリマーを含まず」の趣旨は,カルシウム含有層中のポリマー含有量が,約0.5重量%未満,好ましくは約0.2重量%未満,より好ましくは約0.1重量%未満,多くの場合皆無であることを意味することから,「該顆粒の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない」の趣旨は,「個々の顆粒の外表面の全てではないが,少なくとも半分以上はポリマーで覆われていない」ことを意味する。他方,前記3⑵アのとおり,引用発明の上記特定に係る「粒子の一部が露出した状態で固定されている」は,個々の粒子の一部が,同粒子の基材シートへの固定が妨げられない程度に露出していることを意味するものと解される。そうすると,前記相違点は,実質において,本願発明における「個々のカルシウム化合物の顆粒」及び引用発明における「個々のリン酸カルシウム系化合物からなる粒子」,すなわち,個々のカルシウム系化合物粒子が基材シートから露出する程度の相違であり,本願発明は,引用発明よりも,露出の程度が大きいものと解される。
⑵ 引用発明における粒子の露出
・・・
エ また,本件審決は,引用例【0048】から【0051】には,基材シートと粒子を直接付着する方法等が記載されており,必ずしも「プレス」による付着方法のみが記載されているわけではなく,しかも,「粒子の露出の程度」は,それらの方法に応じて様々なものになることは技術常識であるとして,粒子の露出の程度を適宜変更するべくプレス以外の付着方法を採用することも当業者が容易になし得た旨判断した。
 しかし,前記2のとおり,引用例においては,従来技術の課題を解決する手段として,①基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させること及び②その粒子をプレスして基材シートに埋入させることが開示されており,本件審決が指摘する【0048】から【0051】は,前記①の「付着」の方法に関するものである。また,前記2によれば,前記②の「プレス」は,前記課題を解決する手段として不可欠なものというべきである。
 したがって,引用例に接した当業者において,前記②の「プレス」を実施しないことは,通常,考え難い。
オ 以上のとおり,引用例の記載において,露出の程度に触れているものはないことに照らすと,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。 
⑶ 相違点2の容易想到性
 前記⑵のとおり,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。また,本願優先日当時においてそのような技術常識が存在していたことを示す証拠もない。
 したがって,本願優先日当時において,引用例に接した当業者が,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度をより大きくしようという動機付けがあるということはできない。
 そうすると,引用例に基づいて,相違点2に係る本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。
 以上によれば,原告主張の取消事由2には,理由がある。」

【コメント】
 本発明は生体内で,骨の代わりとして使う(手術のときなど) 骨複合材の発明のようです。
 クレームは以下のとおりです。
【請求項1】
 (a)合成吸収性ポリマーを含み,第1の面および第2の面を有する第1のポリマー層であって,前記第1のポリマー層がそれに穿孔を有し,かつ,前記第1のポリマー層が薄膜の形態である,前記第1のポリマー層;および 
(b)前記ポリマー層の前記第1の面に化学的,物理的またはその両方で付着し,カルシウム化合物の顆粒を含む第1のカルシウム含有層(該第1のカルシウム含有層は実質的にポリマーを含まず,かつ,該顆粒の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない)
 を有する可撓性骨複合材。
 
 図はこのようなものです。

【図1】ポリマー層およびカルシウム含有層を有する本発明の可撓性骨複合材の1実施形態の断面図(ポリマー層30,顆粒22,カルシウム含有層20,可撓性骨複合材10,ポリマー層30の第1の面32および第2の面34。)。

 そして,主引例との一致点・相違点は以下のとおりです。
イ 本願発明と引用発明との一致点
(a)合成吸収性ポリマーを含み,第1の面および第2の面を有する第1のポリマー層であって,前記第1のポリマー層がそれに穿孔を有し,かつ,前記第1のポリマー層が薄膜の形態である,前記第1のポリマー層;および
(b)前記ポリマー層の前記第1の面に化学的,物理的またはその両方で付着した,第1のカルシウム含有層
 を有する可撓性骨複合材である点
ウ 本願発明と引用発明との相違点
(相違点1)
 本願発明は,カルシウム化合物が「顆粒を含む」と規定しているのに対し,引用発明は,そのような規定を有しない点
(相違点2)
 カルシウム含有層が,本願発明では,「実質的にポリマーを含まず,かつ,該顆粒の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない」と特定されているのに対し,引用発明では,「粒子の一部が露出した状態で固定されている」と特定されている点

 判旨は相違点2の部分に関する所です。
 要するに,上記の顆粒22の部分について,「個々のカルシウム系化合物粒子が基材シートから露出する程度の相違であり,本願発明は,引用発明よりも,露出の程度が大きい」という違いがあるけれども,これが想到容易かどうか?ということです。
 そして,上記のとおり,高部部長の合議体は, 引用例には露出の程度についての明示の記載はなく,さらに技術常識等の適用もできない(引用例の発明で違う方法をとりえない)ことから,「引用例の記載において,露出の程度に触れているものはないことに照らすと,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。 」と判断したわけです。

 とは言え,かなり微妙な判断のような感じもします。
 今回,拒絶査定の不服の審判ということで,被告が特許庁でしたので,ある程度やればいいかなという心持ちが見え隠れします。
 ですので,無効が争いになった場合等,特許庁とは比べものにならない真剣度の相手方(要するに,侵害訴訟での被告)でしたら,技術常識等も探しだして,進歩性無いことを証明できるのではないかと思えます。