2016年2月1日月曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10182 不使用取消審判 取消審決 請求棄却


事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年1月21日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 大 西 勝 滋
裁判官 神 谷 厚 毅 
「 原告らは,被告が要証期間内に本件商標を使用することを許諾していたから,被告による要証期間内の本件商標の使用は,通常使用権者による使用に当たる旨主張するので,以下において判断する。
ア 原告X2の使用許諾について
 原告らは,①原告X2と被告は,平成6年1月ころ,被告が原告X2に対し,被告の製造する商品の販売を委託する旨の販売委託契約を口頭で締結し,その後,平成16年には,本件商標を付した被告の商品についても上記販売委託契約の対象に含まれることとなり,平成22年8月までの間,本件商標を付した上記商品を共同して販売していたこと,②被告は,原告らが平成16年に本件商標の商標登録出願をし,その後,本件商標の商標登録を受けたことを知っていたこと,③被告が要証期間前に原告X2に対して本件商標の使用料を支払っていたこと(甲3),④原告X2は,原告X2及び被告間の和解契約書(甲10の1)の4条において,被告が本件商標を「従来のみならず今後無償にて使用すること」を認めていることなどを根拠として挙げて,原告X2は,原告らが本件商標の商標登録出願をした平成16年,被告との間で,本件商標の使用許諾契約を口頭で締結し,上記使用許諾契約は,要証期間内においても存続していたから,被告による要証期間内の本件商標の使用は,上記使用許諾契約に係る原告X2の使用許諾に基づくものである旨主張する。
 しかしながら,原告らの主張を前提としても,原告X2と被告との間に締結されたとされる本件商標の使用許諾契約の具体的な内容は明らかではなく,使用の対価に関する取決めも明らかではない。
 原告ら主張の①の点については,原告ら主張に係る原告X2と被告との間の販売委託契約について,平成22年8月20日に上記販売委託契約が解除されたかどうかの点をおくとしても,上記販売委託契約が本件商標の使用を許諾することを含むものかどうかも含め,原告らの主張自体,その具体的内容は明らかではなく,要証期間内に,原告X2が被告に対し本件商標の使用を許諾していたことの根拠とすることはできない。
 原告ら主張の③の点については,原告らは,被告が原告X2に対して本件商標の使用の対価として使用料を支払っていた証拠として,「集計表」と題する書面(甲3)を提出するが,上記書面の記載からは何を集計した表であるのか明らかではないし,仮に上記書面が被告から原告X2に対する何らかの金銭の支払があった事実を示すものであるとしても,その支払が本件商標の使用料であることを認めるに足りる証拠はない。
 さらに,原告ら主張の④の点についても,「和解契約書」と題する書面(甲10の1)の4条には原告らの主張する内容の条項が記載されているものの,上記書面には,原告X2の署名押印も被告の代表社員の押印も存在しないから,原告X2と被告との間に上記書面に記載された内容の和解契約が成立したものとは認められない。
 かえって,前記(1)オのとおり,被告が,原告らを相手として,本件商標権の移転登録手続等を求める旨の別件調停の申立て及び別件訴訟(307号事件)の提起をし,また,前記(1)カのとおり,原告らが,被告を相手に提起した別件訴訟(6号事件)において,被告が平成22年9月以降現在に至るまで,何らの権限もなく本件商標を使用し,本件商標権を侵害している旨を主張していることに照らすと,原告ら主張の①,③及び④の諸点は,原告X2と被告が,本件商標の使用許諾契約を締結したことや,上記使用許諾契約が要証期間内にも存続していたことの裏付けとなるものではないことは明らかである。
 以上の検討によれば,原告ら主張の②の点についても,そのことのみをもって直ちに,要証期間内に,原告X2と被告との間に本件商標の使用許諾契約が存在していたことの裏付けとなるものではない。
 他に,要証期間内に,原告X2が,被告に対し,本件商標の使用を許諾していたことを認めるに足りる証拠はない。」

【コメント】
 商標の,訴訟に至るまでの事件というと,近時2つのパターンしかありません。
 一つは,剽窃です。外国での著名な商標をパクって出願するというやつです。これって,中国がお得意だと思っている方も多いと思いますが,いやいやいや,日本でも結構あります。

 もう一つが内輪もめです。代替わりした際での兄弟間や弟子(丁稚)間,商売に絡む話ですと委託者と受諾者,開発社と販売社,本人と代理人などがそのパターンです。
 これもある意味,剽窃的ではあります。
 というのは,大体,一方が知らない間に,他方が商標登録出願しているってパターンですから。

 本件も,被告の代表者の子供(長女)が原告X1で,X2も被告から委託を受けて,本件商標を付けた商品を販売していたようなのですね。そして,原告らは,本件商標について,商標登録出願をして,商標登録を受けたとのことです。
これがその商標です。
 
 ところが色々あったのでしょう。本件とは別件で,原告らが被告に対して,商標権侵害訴訟を提起しております。

 ですので,本件が珍しいのは,このような内輪もめの事件の場合,トラブル当事者の双方とも,問題となる商標の使用をしているのが普通なのに(どちらも使いたいからこそ,トラブルになるわけですので。),不使用取消審判が提起され,審決ではそれが認められ,さらに,この訴訟でも請求棄却,つまり原告らは不使用だったということです。
 特に,内輪もめとは言え,上記のような関係性に基づくと,通常は黙示のライセンスが被告に付与されていることを認めるに十分で,不使用でないとされることが多いのではないかと思います。
 ところが,本件では,原告らが商標権侵害訴訟を提起しておりますので,あっちでは無権原(侵害),こっちでは有権原 (通常使用権者の使用)と言うことは許されず,そのようなことも加味され,今回の結論に至ったのではないかと思います。

 個人的には,裁判官のリーガルマインドに一番癪に障る系の主張がされ,そのために原告らの敗訴に至ったのではないか,などと思っております。

 なお,他の指定商品でも,同様の事件(平成27年(行ケ)第10181号)があります。