2016年4月9日土曜日

審決取消訴訟 特許 平成27(行ケ)10129 不服審判 拒絶審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年3月16日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官清 水 節
裁判官中 村 恭
裁判官中 武 由 紀

「(2)  「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」部分の認定について 
   ア  検討
  原告は,審決が引用発明の「枠体」は本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当すると認定したことが,誤りであると主張する。
  審決は,引用発明の枠体が本願補正発明の測定領域形成部に相当する部分を形成しているとした上で,パーティクルがシート状の空間Sを通過し得るのであれば,開口部42の開口面に直交して気体が流れ得ることは当業者にとって明らかである,と認定している。
  しかしながら,次のとおり,引用発明の枠体は,「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ものではないから,審決の上記認定は,誤りである。
  すなわち,前記1(2)のとおり,引用発明は,従来の浮遊パーティクル検出装置がパーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるものの,パーティクルの飛来方向は検出できないという問題を踏まえてされたものであり,その目的は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供することにある。つまり,引用発明は,パーティクルの飛来方向が不明であるからこそ,その飛来方向を検出しようとするものである。そして,引用発明の検出対象である浮遊パーティクルとは,前記1(2)のとおり,クリーンルーム内等の空気中に浮遊するパーティクル,すなわち,気流によって運ばれる微粒子であるから,その飛来方向は,実質的に,気流の方向に一致すると認められる。そうすると,引用発明は,パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の方向からの気流を前提とはしていないものである。
  一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の記載において,仕切りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにしたものと特定され,さらに,粒子濃度cを算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T(r:計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内部の面積にほかならず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通過する気体の流れの方向が開口面に直交する方向のみの場合であるから(気体の流れが開口面に直交していない場合に気流の容積を算定する際の基準面積r´は,開口内部の計測領域面積rよりも小さな値である。),本願補正発明は,仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されていると認められる。
  以上からすれば,引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は,あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れの方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。」

「 3  取消事由4(相違点2の判断の誤り)について
  事案にかんがみて,取消事由4について,引き続いて,検討する。
  原告は,引用発明に引用発明2の構成を適用して相違点2に係る本願補正発明の構成とすることには,阻害要因があるか又は動機付けがないと主張する。
  相違点2は,「本願補正発明は,光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段を有し,前記粒子濃度cを,c=n/(r×v×T)の式により算出するように構成されており,パーティクル測定装置がパーティクル濃度測定装置であるのに対して,引用発明では,空間Sを通過したパーティクルの数を求めてはいるものの,粒子濃度の算出を行っている点は特定されていない点。」というものである。そして,引用発明2の濃度測定方法は,時間t当たりに粒子検出領域から検出された総出力信号(∫f(t)dt)を求め,これと,あらかじめ既知の粒子濃度の試料流体で求めておいた出力信号とを対比した結果に基づいて粒子数Nを設定し,これを時間t当たりの粒子検出領域を通過した試料流体の体積(F・t(m3))で除して算出するというものと認められる(引用文献2【0023】~【0025】)。引用文献2に記載された数式は,単に背景的な原理を示すための説明にすぎず,引用発明2において粒子数N自体のカウントはされていないと認められる。引用発明2の濃度測定方法と,カウンタにより粒子総数を求め,これを,計測領域面積と気流速度と計測時間により求めた気流の容積で除して粒子濃度を求める本願補正発明の濃度測定方法(本願補正明細書【0010】【0027】【0028】【0037】)と
は,異なる方法である。
  したがって,仮に引用発明に引用発明2の濃度測定方法を適用することができるとしても,相違点2に係る本願補正発明の構成には至らない。
  被告は,引用発明2の濃度測定方法が,相違点2に係る本願補正発明の構成に相当すると主張する。
  しかしながら,引用発明2において,基礎となる単位時間当たりの試料流体6の流量F〔m3/分〕をどのように算出しているか明らかではないから,これが粒子検出領域7の面積と流体の速度との積であるとする根拠も認められないし,また,上記のとおり,引用発明2は粒子数N自体をカウントするものではないと認められる。
 そうすると,引用発明2の粒子濃度測定方法を,本願補正発明の粒子濃度測定方法,すなわち,粒子数cを,検出対象領域rと気流速度vと計測時間Tを乗じて求めた気体の容積で除することによって求める方法と同じものとみることはできない。」

【コメント】
 クリーンルームなどでのパーティクルの濃度測定装置の発明です。

 クレームはこういうものです。
実質的に環状の仕切りを有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と,
    前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段と,
    前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,前記光膜に対する位置が固定である粒子検出撮像カメラ手段と,
    前記光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段と,
    を有するとともに,
    [前記測定領域形成部,前記光膜形成手段,及び前記粒子検出撮像カメラ手段が一体の状態で,]
    前記粒子濃度c[を],c=n/(r×v×T)の式により算出する[ようにした],ことを特徴とするパーティクル濃度測定装置。
    ここで式内の各変数の定義は以下のとおりである。
    c:粒子濃度
    n:粒子数
    r:計測領域面積(前記粒子検出撮像カメラ手段の検出対象領域)
    v:気流速度(気流速度検出器から与えられる気流速度)
    T:計測時間 
」  

 引用発明は,甲1で,一致点・相違点は以下のとおりです。
  (2)  一致点の認定
  本願補正発明と引用発明とを対比すると,次の点で一致する。
「 実質的に環状の仕切りを有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と,
    前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段と,
    前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,粒子検出撮像カメラ手段とを備えたパーティクル測定装置。」
    (3)  相違点の認定
  本願補正発明と引用発明とを対比すると,次の点が相違する。
      ア  相違点1
  本願補正発明は,粒子検出撮像カメラ手段が,光膜に対して「位置が固定」である点が明確にされているのに対して,引用発明は,その点が明確にされていない点。
      イ  相違点2   本願補正発明は,光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段を有し,前記粒子濃度cを,c=n/(r×v×T)の式により算出するように構成されており,パーティクル測定装置がパーティクル濃度測定装置であるのに対して,引用発明では,空間Sを通過したパーティクルの数を求めてはいるものの,粒子濃度の算出を行っている点は特定されていない点。
      ウ  相違点3
  本願補正発明は,粒子濃度cの算出を,測定領域形成部,光膜形成手段,及び粒子検出撮像カメラ手段が一体の状態で行っているが,引用発明は,その点が不明である点。
  」

 で,そもそも,判決のとおり,引用発明は本願発明とかなり違うものだったのです。
 
 これは原告が説明のために起案した図です。これがわかりやすいです。
 この図の左が引用発明で,右が本願発明的なものです。
 引用発明は,左の図のとおり,パーティクルの来る方向と速度を測定するものです。それ故,測定領域には斜め左右色々な方向からバラバラに飛来してくることが前提です。
 他方,本願発明は,「 開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ことから,濃度を測定できるようになったわけですから,パーティクルがバラバラに飛来することが前提ではありません。

 それ故,そこの部分まで一致するとした審決が誤りなのは致し方ない所でしょう。

 さらに, 相違点2の算出方法,「前記粒子濃度cを,c=n/(r×v×T)の式により算出する」を引用発明2で補えるとした所も論難されております。そもそも,引用発明2の流量Fが本願発明にいうr×vかどうかもわかりやしない,というような箇所です。

 要するに,本件は,引用発明1の認定も間違い,引用発明2の認定も間違い,動機付け(容易想到性)判断以前の問題だと批判されているわけです。

 これはかなり特許庁の審判官のプライドを傷つける判旨ですが,確かにこんな認定されては致し方無いという風に思えますので,しょうがないのでしょう。