2016年5月24日火曜日

審決取消訴訟 商標 平成28(行ケ)10014 不使用取消審判 取消審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年5月18日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官清水 節
裁判官片岡早苗
裁判官古庄 研

第3 原告主張の審決取消事由(本件商標の使用)と被告の認否
 原告は,本件審判請求登録前3年以内(以下「要証期間」という。)である平成25年9月,当時の商標権者であったカミンが,本件商標の指定商品に属する「猫めくり2014 CatsCalendar」と題するカレンダーを発行して,日本国内の書店や複数のウェブサイトで販売し,その表紙や最終頁等に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標(本件商標と同一の「猫めくり」の文字からなる商標)を付して使用した事実を主張して,審決の取消しを求めた。
 被告は,前記事実を争わない旨述べた。

第4 当裁判所の判断
1 前記第3のとおり,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が,要証期間内に,日本国内において,本件商標の当時の商標権者であったカミンにより,指定商品のうち「印刷物」について使用されていたことは,当事者間に争いがなく,要証期間内における本件商標の使用が認められるから,本件商標について商標法50条の規定により登録を取り消した審決は取り消されるべきである。
2 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

【コメント】
 商標の不使用取消審決に対する取消訴訟です。

 商標は以下のようなものです。
 image 
 (猫めくり)です。
指定商品は第16類「印刷物,書画,写真」です。
 さて,一見すると実に不思議な事件です。
 まず,審決の方は,
2 審決の要旨
審決は,原告は本件審判請求に対し答弁しないから,本件商標の登録は商標法50条の規定により取り消すと判断した。
 とあります。

 で,商標権者である原告は,かなり有名な出版会社です。にもかかわらず,なぜ応答しなかったのかはよくわかりません。ただ,時系列的に見ると,元々の商標権者から現在の原告が商標を譲り受けた時期と不使用取消審判の時期が重なっており,このためかもしれません。

 とは言え,状況を説明すれば,特許庁の審判合議体も,何らの善処はしたでしょうから,何の答弁書も出さずに居たというのは疑問です。

 つぎに,この判決自体も上記のとおり,今度は被告が争わないということで,終結しております。審判で原告が争わなかったのはそれなりの理由がありそうですが,被告が訴訟で争わなかった理由がわかりません。

 争ってもしょうがないほどの使用の態様だったのかもしれませんが,そのような場合は,通常審判を提起する前にわかるものです。にもかかわらず,審判を提起し,その上,この審判だけではなく,実は被告は「犬めくり」という,商標についても審判を提起しております。

 さて,ちょっと検索などするとわかるのですが,この商標の元々の持ち主だったカミンは,2014年に破産手続開始決定を下されております。 

 で,その倒産処理の一環として,商標権が今の原告に渡ったのでしょうね。倒産処理の場合,破産財団のうちから換価可能なものは次々と処分されますから。

 ところで,このカミンの代表取締役が,実は,今回の被告と同一人物です。

 ですので,恐らく,被告としては,不使用取消審判で商標権を取り消し,その部分に自分が出願し, 再度自分が商標権者になりたかったのでしょう(検索すると,やはり昨年2015年の4月に,被告による「猫めくり」と「犬めくり」の商標登録出願があります。)。

 ところが,どさくさ紛れのその野望は,様々落ち着いてきた訴訟段階で脆くも崩れ去ったわけです。恐らく,原告からは,こんなことをすると,破産手続に遡及して不利益が及ぶかもしれないというような警告があったのでしょうね。

 だからこそ,審決では勝ったのに,訴訟では,自分の経営していた会社による使用の事実をあっさり認めたのではないかと思います。

 短い判旨ですが,その裏にある, 様々な人々の思惑が感じられる事件だと思います。