2016年7月14日木曜日

侵害訴訟 商標 平成26(ワ)8187 大阪地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年5月9日
裁判所名
 大阪地方裁判所所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官髙 松 宏 之
裁 判 官田 原 美 奈 子
裁 判 官林 啓 治 郎
 
「 (1) 単独の不法行為としての本件各商標権侵害の成否について
ア 本件表示がスペースなし表示の場合について
(ア) 原告は,「石けん百貨」等の標章を表示した本件広告に楽天市場リスト表示画面をハイパーリンク先として設定する行為が,商品に関する広告を内容とする情報に「石けん百貨」等という標章を付して電磁的方法により提供するものであり(商標法2条3項8号),本件各商標権を侵害するとの趣旨の主張をする。
(イ) 被告が運営する楽天市場が多数の加盟店から成るインターネットショッピングモールであることは,一般ユーザーの間に広く知られている事実であり,また,「石けん百貨」等の語は,普通名称ではなく,造語として理解される語である。そうすると,楽天市場の広告において,造語である「石けん百貨」等を用いて,「【楽天】石けん百貨大特集」等と表示されている場合には,その広告に接した一般ユーザーは,「石けん百貨」に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解するのが通常であると考えられる。
 しかし,本件広告自体には,何らの商品も陳列表示されておらず,加盟店が提供するどの商品が「石けん百貨」等と関連するのかについて何ら表示されていないから,本件広告は,それを単体として捉える限り,本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められない。したがって,本件広告を単体で捉える場合には,本件各商標権侵害の成立は認められない。
 この点について,原告は,本件広告は,本件各登録商標の顧客吸引力を利用してユーザーを楽天市場のサイトへと導くものであるから,本件各登録商標の出所識別機能や広告機能を害すると主張する。しかし,前記のとおり,本件広告は,それを単体で見る限り,具体的な商品について「石けん百貨」等を使用するものではないから,指定商品及び指定役務に関する本件各登録商標の出所識別機能を害するとはいえないし,本件広告が本件各登録商標の顧客吸引力を利用しているとしても,指定商品や指定役務に関する出所識別機能を害さない以上,本件各商標権を侵害するとはいえない。
(ウ) もっとも,原告の上記主張は,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体で捉えた上で,本件広告が移動後の楽天市場リスト表示画面に表示された商品についての広告であるとの趣旨を含むものと解されるので,次にこの点を検討する。
a まず,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体で捉える場合であっても,移動後の楽天市場リスト表示画面に何らの商品も陳列表示されない場合には,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められないから,本件各商標権侵害の成立が認められないことは前記と同様である。
b 他方,本件のように,移動後の楽天市場リスト表示画面において加盟店が提供する商品が陳列表示される場合については別途の検討を要する。すなわち,前記のとおり,本件広告に接した一般ユーザーは,「石けん百貨」等に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解すると考えられることからすると,その理解の下に本件広告中のハイパーリンクをクリックして楽天市場リスト表示画面に移動し,そこで加盟店が提供する石けん商品の陳列表示に接した場合には,その石けん商品が「石けん百貨」等に関連するものであるとの認識が生じ得る。そうすると,本件広告と楽天市場リスト表示画面とを一体で捉える場合には,本件表示をもって,「石けん百貨」等を石けん商品の出所識別標識として用いた広告であると解する余地がある。
 しかし,前記認定事実(3)のとおり,移動後の楽天市場リスト表示画面において商品が陳列表示されるか否か,また,いかなる商品が陳列表示されるかは,各加盟店が出店ページでどのようなキーワードを使用しているかによって決まることになる。そして,前提事実(4)のとおり,各加盟店は,被告の関与なく,自らの責任で出店ページのコンテンツを制作しているこからすると,移動後の楽天市場リスト表示画面において商品が陳列表示される場合でも,それを被告の行為として当然に本件広告と一体に捉えることはできないというべきであり,本件広告とリンク先の楽天市場リスト表示画面とを一体に捉えることができるためには,被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価し得ることが必要であると解するのが相当である。
c そこで,次にこの点を検討するに,加盟店が「石けん百貨」等に関連する石けん商品を何ら取り扱っていないにもかかわらず,石けん商品を販売する出店ページにおいて「石けん百貨」等の標章を明示的に又は画面上見えない隠れ文字として使用することは,被告が加盟店に対して,前記認定事実(5)の知的財産権侵害を禁止する規約や,隠れ文字の使用を禁止するガイドラインにより規制している行為である。このことからすると,加盟店の出店ページにおいて規約等に違反してキーワードが使用され,楽天市場リスト表示画面にそのキーワードを用いた商品が陳列表示されるというのは,本来予定されていない,想定外の事態であるということができる。このことからすると,本件において,被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価することはできないというべきである。・・・
e したがって,本件において,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体として捉えることはできないから,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められない。」

【コメント】
 検索連動型広告による商標権侵害の事件です。
 最先端の話ではあるのですが,事例は少ないため,貴重な判決だと思います。
 
 さて,検索連動型広告というのは,どういうものかと言いますと, 「検索連動型広告とは,Google やYahoo! (以下,併せて「Google 等」という。)などのインターネット上の検索エンジンにおいて,インターネットの利用者が検索したキーワードに関連した広告を検索結果表示画面に表示するものである(乙4。以下,検索サイトにおけるキーワードによる検索結果を表示した画面を「検索結果表示画面」という。)。
 そのうち,アドワーズ(Google AdWords)は,グーグル株式会社の提供するクリック課金広告サービスであり,スポンサードサーチは,ポータルサイトであるYahoo! JAPAN を運営するヤフー株式会社が提供するクリック課金広告サービスである。
 検索連動型広告では,ユーザーがGoogle 等の検索サービスを利用して,自らの関心がある事柄についてキーワードによるウェブ検索をした際に,広告主があらかじめ登録したキーワードが使用された場合,その検索結果を表示するページに,広告主の広告が表示される。
 広告主がアドワーズやスポンサードサーチ(以下「アドワーズ広告等」という。)の利用を設定するには,まず,設定画面上で,広告によって販売したい商品やサービス等についてキーワードを選択し,登録を行う。次に,表示したい広告の見出し,広告文,表示するURL,広告見出しの文言にリンクするURLを登録する。
 このような登録の結果,ユーザーがGoogle 等の検索エンジンを利用して,広告主の登録したキーワードを用いて検索すると,検索結果表示画面の上部,下部,側部等に,登録キーワードを用いた広告が表示されることになる。そして,ユーザーが同広告の見出しの文言をクリックすることで,広告主がリンク先として登録したURLへ移動させることができる。
」というものです(本件の判決から)。

 試しに,「特許調査」というキーワードをグーグルかヤフーの検索窓に入れて検索してみてください。
 そうすると,グーグルの検索結果で最初に出てくるのは,Jプラットパットですが,その前に広告が何件か載っております。また,画面の最後にも広告が何件か載っております。これが,検索連動型広告です。
 
 この広告主達は, グーグルから「特許調査」というキーワードを謂わば購入しているような形になっているのです。連動性の高い(よく検索されるということ)キーワードの単価は高く,あまり検索されないキーワードの単価は低いようです。
 
 で,問題はこのキーワードが,他社の登録商標だったり,商品等表示だったりした場合,商標権侵害や不正競争行為となるか?ということです。
 
 事例は少ないです。
 
 日本だと, 従前,大阪地裁平成19年9月13日(カリカセラピ事件)くらいしかありません。
 ただ,この事件の場合,キーワードで表示された被告の広告内に,原告の登録商標(カリカセラピとCARICA CELAPIの二段表示)と類似の表示は無かったようで,「原告は,被告が広告を表示しているインターネット検索結果ページの広告スペースは,原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして表示されるスペースであり,原告商品の名称及び原告商標と同一である。したがって,原告商品の名称及び原告商標を構成する文字を入力した結果表示されるインターネット上の検索エンジンの検索結果ページ内の広告スペースに被告が自社の広告を掲載することは,商標法37条1号に該当すると主張する。
 しかしながら,原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして検索した検索結果ページに被告が広告を掲載することがなぜ原告商標の使用に該当するのか,原告は明らかにしない。のみならず,上記の被告の行為は,商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難いから,本件における商標法に基づく原告の主張は失当である。」と判示されてしまいました。
 
 他方,本事件では, キーワードで表示された被告の広告内に,原告の登録商標(石けん百科,石けん百貨,石鹸百科)と類似の表示は多数あったようです。
 なので,カリカセラピ事件よりも,商標権侵害の可能性は大きそうなのですが,こちらはこちらで別の問題が生じています。
 
 それは,被告が楽天というインターネットモールだったということです。つまり,広告は楽天がやったものの,その具体的な中身までは楽天は関与できないということです(広告の中身は加盟店が決めます。)。
 
 そのため,本件の大阪地裁は,検索連動型広告とその広告のリンク先とが一体と捉えられる場合には,商標権侵害の可能性があり,その一体基準は,「被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価し得ること」が必要としたのですが,本件ではその予定・利用がなく,該当しないとなったわけです。
 
 今回の事件もそうですが,カリカセラピ事件も原告側に厳しい結果となってしまいました。
 とは言え,キーワードにタダ乗りしているのは,検索会社(グーグルやヤフー)と広告主とも明らかですから,この結論では,利益衡量上,正義に反するという気がしないでもありません。
 
 これに対して,欧州や米国ではどうかというと,欧州については,ルイビィトングループの起こした訴訟にて,グーグルの責任は否定したものの,広告主の責任は肯定しております。
 他方,米国では,ロゼッタストーンの起こした訴訟にて,グーグルの責任を一部認めております。
 
  しかしながら,我が国では,広告自体に登録商標等と類似した表示のない場合(カリカセラピ事件)や,広告主がインターネットモールの場合(本件)にはなかなか責任を認めてもらえない所です。
 それ故,日頃は地道に広告主やグーグル等に削除などの対策を申し入れをしつつ,いざ裁判になったら,こちらの大阪の溝上先生が書いているように,広告主とグーグル等の共同不法行為構成がよいのではないかと思います(本件のような場合なら,インターネットモールに加えてグーグルをも被告にするということです。)。 

 なお,新しい論点なので,論文は多少あるのですが,これと言った参考になる本はあまりありません。
 強いて言うなら,「インターネット新時代の法律実務Q&A」田島正広監修(日本加除出版)のp302か,「新しい商標と商標権侵害」青木博通著(青林書院)p180,598くらいでしょうか。

 兎も角,実務家の間で思ったより騒がれておりませんが,非常に重要な判決だと思います。