2016年7月6日水曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ワ)6812  東京地裁 請求一部認容


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年6月23日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官藤原典子
裁判官萩原孝基

均等論
「(2)均等侵害の成否
ア特許請求の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた製品と異なる部分が存する場合であっても,① 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),② 上記部分を当該製品におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),③ そのように置き換えることに特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が当該製品の製造時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④ 当該製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考することができたものではなく(第4要件),かつ,⑤ 当該製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)ときは,当該製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
 本件発明における圧力排出路と被告製品における果汁案内路の構成は,前者がハウジングの中央下端部に形成された防水円筒の下部縁に汁が流れる通路として形成されているのに対し,後者がハウジングと網ドラムを組み合わせたときにハウジングの底面及び防水円筒の下部縁と網ドラムの下方に突設された果汁案内壁とで形成される点(別紙図17)で異なっている。原告は,被告製品の果汁案内路の構成が上記各要件を満たし圧力排出路と均等である旨主張するので,以下検討する(なお,被告は上記第4要件及び第5要件を争っていない。)。
イ第1要件(発明の非本質的部分)について
(ア)本件明細書には要旨以下の記載がある。(甲2)・・・
(イ)上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の効果等に関する上記(ア)b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的とするものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかにより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ第2要件(置換可能性)について
 前記イ(イ)のとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラムの底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また,これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁を効率的に排出することができる。
 他方,前記前提事実(3)ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のスクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入されて回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。したがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作用効果を奏するということができる。
 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。
 これに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することにより清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能とはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとしても,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係であり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。」

損害論
「(1)前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属するところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これに対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから,独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記請求は理由がないことになる。
(2)本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべき弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。」

【コメント】
 搾汁ジューサーの発明に関する特許権侵害訴訟の事件です。
 均等侵害を認めた点,あと損害論の判示が珍しいと思えましたので,取り上げました。

 クレームは以下のとおりです。
A 上部一側に投入口が貫通形成され,内部中央に回転軸孔が形成される蓋と,
B 前記蓋の下部に設けられ,底部には案内段が形成され,外部下端部には滓排出口と汁排出口とが離隔して形成され,中央下端部に貫通孔を持つ防水円筒が形成され,前記防水円筒の下部縁に前記汁排出口と連通する圧力排出路が形成されたハウジングと,
C 上部には前記回転軸孔に回転可能に挿入される上部回転軸が形成され,外面にはスクリュー螺旋が複数形成され,下端には上記圧力排出路に挿入されて回転する複数のスクリューギヤが形成された内部リングが下方に突出形成され,前記内部リング内側に前記防水円筒が挿入される下部空間が設けられ,下部中心には角形軸孔が形成された下部回転軸を備えたスクリューと,
D 外壁は,前記汁排出口へ汁を排出させるべく,網構造からなり,内部面には垂直方向に複数の壁面刃が備えられ,前記案内段に挿入されるように形成された網ドラム,
E 前記ハウジングと前記網ドラムとの間に装着されて回転しながら,前記網ドラムと前記ハウジングとを連続的に掃き出すブラシ付のブラシホルダーを備えた回転ブラシと,
F 前記防水円筒の貫通孔を介して前記角形軸孔に挿入される角形軸が備えられ,前記スクリューを低速に回転させる駆動部とを含み,
G 前記スクリューを収容するハウジングが前記駆動部の上側に垂直に固定され,投入口に挿入された材料を圧着及び粉砕すると共に搾汁しながら滓を排出する
H ことを特徴とする搾汁ジューサー。


 均等論でのポイントが,圧力排出路です。
 この図(図はJプラットパットから引いたのですが,解像度が悪くてよくわかりません。)の,580が圧力排出路で,560の汁排出口とつながっています。
 とは言え,図が不鮮明なので,どういう構造なのか(溝なのか,それとも仕切りを設けているのか)よくわかりません。しかしながら,何らかの構造であることは確かです。



 他方,上記が,被告製品です。数字は原告が特許に合せて付したもののようです。

 さて,この図のとおり,汁排出口とつながっているような溝というか構造体は見当たりません。ギヤとかありますが,それらを除けば,フラットな底です。

 それでも,上記のとおり,均等侵害を認めたわけです。
 判決は, 「圧力排出路の存在は本件発明が解決すべき課題と直接関係するものではない。」としておりますので,均等第1要件を広く認める技術的思想説?をとったのかなと思います。

 とは言え,前に紹介した知財高裁の判決などに比べるとかなり荒っぽい論理です。 このような考え方だと均等第2要件との差がないようにも思えます(そのため,上記のとおり,第2要件まで引用しました。)。

 ちなみに,本件の明細書も,2つの実施例しかありません。網羅性のない,非常に個別具体性の高い明細書だと思います。


 つぎに,損害論です。
 今回,非常に珍しいことに,侵害でありながら,弁護士・弁理士費用しか認められておりません。
 なぜなら,特許法102条2項の適用で,被告の利益が無かったからです。102条1項にすればいいとも思えますし,原告の利益の開示等が嫌ならせめて102条3項の主張も行えば良かったと思えます(原告は特許権者ではありませんが,専用実施権者ですので,3項も大丈夫です。)。

 にもかかわらず,どうして,102条2項だけにこだわったのか非常に不思議です。