2016年8月8日月曜日

侵害訴訟 著作権  平成26(ワ)10559 大阪地裁 請求一部認容

事件名
 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年7月19日
裁判所名
 大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 大 川 潤 子

「1 争点(1)(本件写真の著作物性及び著作権の帰属主体)について
(1) 本件写真が原告撮影に係る写真であることは当事者間に争いがないが,被告は,本件写真の著作物性を否認するとともに,著作物性が認められたとしても,原告が著作権者ではないとして争っている。
 ところで写真が著作物として認められ得るのは,被写体の選択,シャッターチャンス,シャッタースピードの設定,アングル,ライティング,構図・トリミング,レンズの選択等により,写真の中に撮影者の思想又は感情が表現されているからであり,したがって写真は,原則として,その撮影者が著作者であり,著作権者となるというべきことになる。  
(2) これにより本件について見ると,本件写真①は,舞のポーズをとった舞妓を,やや斜め左前の位置で,舞妓をごく僅かに見上げる高さから撮影したものであるが,舞を踊るポーズを取る舞妓の表情及び全身を捉える撮影位置,撮影アングル,構図を選択したのは撮影者の原告であり,本件写真①は,このことにより撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
 本件写真②は,黒髪の舞を踊る最中の舞妓を,ほぼ正面の位置で,舞妓とほぼ同じ目の高さから連写の方法で撮影したものであるが,舞の最中の舞妓が視線を落とした一瞬を切り取り,舞妓を正面からほぼ同じ目の高さで撮影するという,撮影位置,撮影タイミング及び撮影アングルを選択したのは撮影者の原告であり,本件写真②は,このことにより,撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
 本件写真③は,舞を踊る最中,座った姿勢となった舞妓を,舞妓の左正面約45度の方向から,座った姿勢の舞妓とほぼ同じ目の高さで撮影したものであるが,舞を踊る舞妓が座った一瞬を切り取り,これを斜めの位置からほぼ同じ目の高さから撮影するという,撮影のタイミング及び撮影位置,撮影アングルを選択したのは撮影者の原告であり,本件写真③は,このことにより撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
 したがって,本件写真は,いずれも著作物足り得るものであり,撮影者,すなわち著作者である原告が,著作権者であると認められる。・・・

2 争点(2)(被告の本件絵画の制作行為等は,本件写真の著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるか。)について
(1) 翻案権侵害について
ア 本件写真①について
 被告が,本件写真①に依拠して本件絵画①を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真①と本件絵画①とを対比すると,本件絵画①は,その全体的構成が本件写真①の構図と同一であり,本件写真①の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真①の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真①の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真①の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真①を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画①の制作行為は,原告の本件写真①に係る翻案権を侵害する行為である。
イ 本件写真②について
 被告が,本件写真②に依拠して本件絵画②を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真②と本件絵画②とを対比すると,本件絵画②は,その全体的構成は本件写真②の構図と同一であり,本件写真②の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真②の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真②の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真②の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真②を翻案したものということができる。
 したがって,被告による本件絵画②の制作行為は,原告の本件写真②に係る翻案権を侵害する行為である。
ウ 本件写真③について
 被告が,本件写真③に依拠して本件絵画③,④を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真③と本件絵画③,④とを対比すると,本件絵画③,④は,いずれともその全体的構成は本件写真③の構図と同一であり,本件写真③の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真③の撮影方法と同じく,正面斜め前の全く同じ位置,高さから見える舞妓の姿を同じ構図で描いていることで本件写真③の本質的特徴を維持しているが,本件絵画③は,これに背景色に明るい単色を用い,さらに舞妓の姿も本件写真③よりも明るく淡い雰囲気となるよう表現した日本画として描かれることにより,また本件絵画④は,本件絵画③とは異なり背景色に暗い色を用い,さらに舞妓の着物の色を本件写真③とは異なる青味のものとした上,その輪郭をぼかして淡く光るように描くことで,背景から舞妓の姿を浮かびあがらせるよう表現した日本画として描かれることにより,それぞれ創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これらに接する者がいずれも本件写真③の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真③を翻案したものということができる。
 したがって,被告による本件絵画③,④の制作行為は,原告の本件写真③に係る翻案権を侵害する行為である。」

【コメント】
 京都の舞妓さんの写真の著作権及び著作者人格権に関する争いです。
 
 法的には特段難しいこと,論点になりそうなことは全くないと言ってよい事例なのですが,面白いと思われる所があって取り上げました。

 それは,クリエイターって意外と法的なことには無頓着っていうことです。

 つまり,新興のベンチャーがそれほど特許や意匠というものに無頓着であるように,トラディショナルなクリエイターである日本画家も著作権というものに無頓着であるということです。

 ちょっと著作権を勉強すれば,写真に誰かの著作権が発生しているのではないかと思うことは自然です。
 写っている人の肖像権も問題になる場合もあると思うのですが,むしろ,撮られた人より撮った人の著作権が問題になることが多いと思います。
 
 ですので,自分が撮った写真でない誰かが撮った写真について,それをそのまま模写したりモチーフにしたりすることは,そのわからない誰かの著作権や著作者人格権の侵害となる場合もあります。

 例えば,本件でも以下のような被告の主張があります。
(1) 被告は,原告がP3に本件写真を交付することによりその著作権を放棄した旨主張する。
 しかし,そのことを直ちに認め得る証拠はないことはもとより,証拠(甲21,甲22(いずれも枝番号を含む),原告本人)によれば,原告がP3に対して本件写真を含む写真を多数交付したのは目を患っているP3の絵画制作を援助するためという人的関係に基づくものであって,その写真がP3から第三者に交付され利用されることは予定されていなかったこと,そもそもP3は写真を模写したような絵画を制作するわけではなく,ただ絵画制作時の参考資料として利用するにすぎないこともあって,その当時,原告とP3の間で本件写真の利用に伴う著作権に及ぼす影響が明確に意識されていなかったものと推認されることなどからすると,原告が本件写真をP3に交付するに伴い,本件写真の利用につき原告が一切異議を述べることができなくなるような効果をもたらす著作権放棄を黙示的にしたものと認めることもできない。
 写真をもらったからって写真の著作権をもらったことにはなりませんよね,普通。

 さらに,以下のような被告の主張があります。
(2) 被告は,原告がP3に本件写真の利用を許諾しており,被告は,P3から本件写真の利用の許諾を得ているから,被告の行為は著作権侵害にならないように主張する。
 しかし,原告がP3に対して本件写真を交付した経緯が上記(1)で認定したとおりである以上,原告がP3に対して,その限度で著作権の利用を許諾していたとしても,これを超えてP3に再許諾権を与えること,すなわち,P3が,それら写真を第三者の絵画制作に利用のため第三者に提供することまで許諾していたとは認められない。
 したがって,P3が被告に対し,本件写真を絵画制作に利用させることを目的として利用方法について特段の注意することなく交付し,法的には本件写真の利用を許諾したと解され得たとしても,そもそもP3にはその権原がないので,被告は,P3からの利用許諾をもって原告には対抗できないというべきである。


 ある人に対し許諾したからって,それ以外の第三者にまで許諾したことにはなりませんよね,普通。 

 そして,これらのことは本当によく勘違いされることなのではないかと思います。その道のすごいプロと言えども,いざ違反があれば知らないでは済まされないということです。