2016年8月22日月曜日

侵害訴訟 著作権  平成27(ワ)13258  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年7月27日
裁判所名
 東京地方裁判所第29部
裁判長裁判官嶋 末 和 秀
裁判官鈴 木 千 帆
裁判官笹 本 哲 朗 
 
「1 著作権及び著作者人格権侵害の成否について
(1) 被告説明文について
ア 被告説明文による原告説明文に係る著作権侵害の成否の判断について
 原告は,原告説明文は創作性を有する表現たる著作物であり,被告説明文は原告説明文を複製したものであって,原告の著作権に対する侵害が成立する旨主張する。
 そこで検討するに,上記著作権侵害が認められるためには,まず,① 原告説明文と被告説明文とで共通する表現部分について,創作性が認められなければならない。そして,原告説明文と被告説明文は,いずれも本件商品の取扱説明書における説明文であるところ,製品の取扱説明書としての性質上,当該製品の使用方法や使用上の注意事項等について消費者に告知すべき記載内容はある程度決まっており,その記載の仕方も含めて表現の選択の幅は限られている。これに対し,原告は,我が国においては,原告が初めて本件商品を販売した際,高い品質と安全性が求められる日本市場向けに幼児用首浮き輪の安全適切な使用方法等を分かりやすく理解させるための取扱説明書は存在していなかった旨指摘するけれども,そのような状況にあっても,本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については,それ自体はアイデアであって表現ではなく,これを具体的に表現したものが一般の製品取扱説明書に普通に見られる表現方法・表現形式を採っている場合には創作性を認め難いといわざるを得ない。本件商品の取扱説明書において,幼児のどのような行動に着目した注意事項を記載しておくか,どのような文章で注意喚起を行うかといった点についても,選択肢の幅は限られているとみられる。
 次に,前記前提事実に証拠(甲4,13)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告説明文は,モントリー説明書の英語の説明文を日本語に翻訳した上でこれを修正して作成されたものであり,同説明文に依拠して作成されたものと認められる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないこと(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁〔ポパイ事件〕)に照らすと,上記①で創作性が認められる表現部分についても,② モントリー説明書の説明文と共通しその実質を同じくする部分には原告の著作権は生じ得ず,原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作的部分のみについて生じ得るものというべきである。そして,本件においては,上記①で原告説明文(日本語)と被告説明文(日本語)とで共通する表現部分について創作性が認められるとすれば,その理由は,もとより翻訳の仕方に関わるものではなく,英文か日本文かに関わらない表現内容等によるものと考えられるから,上記②では,モントリー説明書の英文を日本語に翻訳したその訳し方に創作性があったとしても,被告による原告の著作権侵害を基礎付ける理由にはなり得ず,表現内容等について原告説明文において新たに追加・変更された部分でなければ,上記「原告説明文において新たに付与された創作的部分」には当たらないというべきである。
 また,原告説明文において本件ガイドラインと共通しその実質を同じくする部分についても,原告説明文がこれに依拠したと認められる場合には,上記②と同様,原告の著作権は生じないというべきである。
 以上の見地に立って,被告説明文が著作物たる原告説明文を複製したものであって原告の著作権侵害が成立し得るかどうかについて,以下,個々的に検討する。・・・
 
 したがって,上記各記載部分が,原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
 
セ 小括
 以上の次第で,被告説明文が著作物たる原告説明文を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。」
 
【コメント】
  幼児用浮き輪の説明書等をめぐる著作権侵害訴訟の事案です。
 
 原告は,いわゆる輸入代理店であり,他方,被告は並行輸入業者なのです。そのため,原告の作成した翻訳の説明書を,被告はそのまま流用したのではないかということが問題になったわけです。

 とは言え,マニュアルであり,翻訳ですので,仮に著作権侵害があるとしても,非常に幅の小さいものではないかと思われます。やはり説明文は機能的なもので,ありふれた表現しかできないのが通常ですから。
 
 そのため,上記のとおり,東京地裁民事29部は,いわゆるろ過テストを採用し,さらに,翻訳でもあることから, 「原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作的部分のみについて生じ得る」と認定したのです。
 
 その結果,説明文に関しては悉く著作権侵害はないとしました。
 
 他方,挿絵の一部については,著作権侵害を認めました。 しかし,この挿絵の件については,特段コメントするほどのことはないと思いますので,各自学習してもらえればよいと思います。

 本件では,マニュアルの説明文については著作権侵害を認めなかった,ここが大きいと思います。