2016年8月12日金曜日

審決取消訴訟 商標 平成28(行ケ)10066  拒絶査定不服審判審判 拒絶審決 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年8月10日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 柵 木 澄 子
裁判官 片 瀬 亮
 
「(1) 本願商標
ア 本願商標は,「山岸一雄」の文字を標準文字で表して成るものであるところ,その構成である「山岸一雄」の文字は,我が国における氏名表記の実情に照らし,「山岸」が氏を表し,「一雄」が名を表し,そして,その全体が「山岸一雄」なる氏名を表したものとして認識されるものである。
イ 証拠(乙3~17。枝番を含む。)によれば,「山岸一雄」を氏名とする者が,①NTT東日本作成の「ハローページ 長野県長野版」に 「’14.9」版(掲載情報は平成26年6月11日現在のもの)及び「’15.9」版(掲載情報は平成27年6月11日現在のもの)を通じて2名, ・・・掲載されていることが認められる。
 上記事実及び弁論の全趣旨によれば,本願商標の登録出願時(平成25年11月19日)及び本件審決時(平成28年2月1日)において,亡山岸(生前の住所地は東京都豊島区。甲19)とは別に,「山岸一雄」を氏名とする者が,複数生存していたものと推認される。
ウ 以上によれば,本願商標は,他人の氏名を含む商標であると認められる。
(2) 「山岸一雄」を氏名とする者の承諾の有無
 証拠(甲19,38)及び弁論の全趣旨によれば,原告の取締役であった亡山岸は,本願商標の登録出願時において,原告が本願商標の登録出願をし,その商標登録を受けることを承諾していたこと,その後,亡山岸は,平成27年4月1日死亡したことが認められる。
 しかし,前記(1)イのとおり,本願商標の登録出願時及び本件審決時において,亡山岸とは別に,「山岸一雄」を氏名とする者が,複数生存していたものと推認されるところ,亡山岸以外の「山岸一雄」を氏名とする者が本願商標の登録について承諾していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 小括
 以上によれば,本願商標は,商標法4条1項8号に該当し,商標登録を受けることができないものというべきである。」

【コメント】
 なかなか面白い商標の拒絶審決事件です。
 
 原告は,つけ麺で有名な大勝軒です。
 
 その大勝軒が,亡き創業者である「山岸一雄」の標準文字商標を出願した所(指定商品等は,「第30類 つけ麺用の中華麺,調理済みのつけ麺,ラーメンの麺,つけ麺用のスープ,ラーメンスープ,ぎょうざ,しゅうまい」,「第43類 つけ麺を主とする飲食物の提供」)で出願した所,商標法4条1項8号で拒絶されたわけです。
 
 商標法4条1項8号は以下のとおりです。
 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
 
 そして,特許庁の審査基準にはこう書かれています。
1.本号でいう「他人」とは、現存する者とし、また、外国人を含むものとする。
2.自己の氏名等と他人の氏名等が一致するときは、その他人の承諾を要するものとする。
3.本号でいう「著名」の程度の判断については、商品又は役務との関係を考慮するものとする。
 
 特にこの2番めが重要ですね。 自分の名前であっても,同姓同名の他人が居る場合には,その他人の承諾が必要だということです。
 それに,条文上,「他人の氏名」 には「著名」はかかっていないということです。

 そうしますと,どんな無名な人であっても,すごくたくさん居た場合でも,それら全員の承諾が要ることになります。このことはある意味,不可能を強いるわけです。

 しかし,今回の判旨にはこう書かれています。
人は,自らの承諾なしにその氏名を商標に使われることがないという利益を確保するために,自己の氏名が含まれる商標の登録の有無を常に確認しなければならないことになる。かかる解釈は,商標に含まれる氏名を有する他人に負担を強いるものであって,相当でないといわざるを得ない。

 つまり,主張立証責任的なものを「他人」に転嫁した場合,不利益が大き過ぎるということです。まあ言われたら確かにその通りですね。
 
 それ故,文理解釈で十分ということで,今回の結論もやむを得ない所でしょう。
 
 まあ創業者の名前なんて出願しないで,もっと他にやることあるんじゃないの?!ということなのかもしれません。
 
 あと,同日で,別の商標の事件(平成28(行ケ)10065 )もほぼ同様の理由で,請求棄却されております。