2016年10月21日金曜日

侵害訴訟 著作権 平成28(ネ)10041  知財高裁 控訴一部認容(請求一部認容)


事件番号
事件名
 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年10月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な

「(1) 著作権の利用主体について
本件店舗において,1審原告管理著作物を演奏(楽器を用いて行う演奏,歌唱)をしているのは,その多くの場合出演者であることから,このような場合誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するに当たっては,利用される著作物の対象,方法,著作物の利用への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,仮に著作物を直接演奏する者でなくても,ライブハウスを経営するに際して,単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁,最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁等参照)
(2) 1審被告らの演奏主体性について
 前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり,本件店舗は,ライブの開催を伴わずにバーとして営業する場合もあるものの,ライブの開催を主な目的として開設されたライブハウスであり,本件店舗の出演者は,1審被告Y2も含め,1審原告管理著作物を演奏することが相当程度あり,本件店舗においては,1審原告管理著作物の演奏が日常的に行われている(なお,1審被告らは,平成28年4月8日,本件店舗の運営方針をバー営業を主とするものに改めたとして,今後は,演奏者が1審原告との間で個別の許諾を得ない限り,1審原告管理著作物の演奏を認めない方針である旨出演予定者に告知しているが,後記7(2)のとおり,同日以降も,1審原告管理著作物の演奏がされている。)。
 また,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり,1審被告らは,共同して,ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置,開店したこと,本件店舗にはステージや演奏用機材等が設置されており,出演者が希望すればドラムセットやアンプなどの設置された機材等を使用することができること,本件店舗が,出演者から会場使用料を徴収しておらず,ライブを開催することで集客を図り,ライブを聴くために来場した客から飲食代として最低1000円を徴収していることからすれば,本件店舗は,1審原告管理著作物の演奏につき,単に出演者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまるものではないというべきである。
 そして,1審被告Y1は,本件店舗の経営者である。また,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3)及び(5))のとおり,1審被告Y2は,自らを本件店舗の経営者と認識しているものではないものの,①本件店舗の開店・運営のための資金を提供し,本件店舗の賃貸借契約の連帯保証人となり,本件店舗に自らを契約者とする固定電話を設置し,自らのバンド名を本件店舗の名称として使用することを決定し,ミュージシャン仲間らとともに,本件店舗に無償で,ライブに不可欠な音響設備等を提供するなど,本件店舗の開店に積極的に関与したこと,②また,本件店舗の開店前には20組ほどのバンドやグループなどのミュージシャン仲間にライブバーが開店することを伝えて出演するよう声をかけ,本件店舗開店当初は単独でブッキング(電子メール等で出演申込みを受け付ける業務)を行っていたこともあり,さらに,自らのブログ等において本件店舗や本件店舗のライブの宣伝活動をし,本件店舗のアルバイト募集の記事,本件店舗におけるライブの様子を紹介する記事等を掲載するなどしているほか,本件店舗のチラシを1審被告Y2の所属するロックバンドの所属事務所が印刷しているのであって,本件店舗の経営に積極的に関与していること,③本件店舗が,出演者に自由に演奏させるという1審被告Y2の意思に沿った運営をしていること,④さらには,本件調停において,1審被告Y2は,平成24年6月11日以降の使用料については演奏した作品に分配される仕組みを採りたいと述べ,「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって支払をする旨述べたり,「社交場利用楽曲報告書」への記載のあり方について1審原告と折衝したりするなど,自ら本件店舗のライブを主催する者として振る舞っていたことからすれば,1審被告Y2においても,1審被告Y1とともに,本件店舗の共同経営者としてその経営に深く関わっていることが認められる。これらの事実を総合すると,1審被告らは,いずれも,本件店舗における1審原告告管理著作物の演奏を管理・支配し,演奏の実現における枢要な行為を行い,それによって利益を得ていると認められるから,1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めるのが相当である。」

「1審被告らは,自ら制作したオリジナル曲を演奏することは,1審原告に著作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから,不法行為に当たらないと主張する。
 しかし,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(7)イ)のとおり,1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は,その契約期間中,全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を,信託財産として1審原告に移転しているから,1審原告管理著作物の著作権者は,1審原告である。そうすると,利用者が誰であっても,1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合には,当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。
 このことは,著作権信託契約約款11条が,自作曲の自己利用に関し,著作物の関係権利者の全員の同意を得た自己利用(委託者がその提示につき対価を得る場合を除く。)については,あらかじめ受託者の承諾を得て,管理委託の範囲についての留保又は制限をすることができると定めていることからも,裏付けられるところである。
 以上のとおり,演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を演奏する場合であっても,1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が,1審原告の著作権侵害に当たることは明らかであり,1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるから,著作権侵害の不法行為が成立する。」

【コメント】
 著作権の事件の紹介は久々かもしれません。

 さて,この事件は,その昔のカラオケ法理(本件でも引用されています。もう一つの判決は,「枢要な行為」でおなじみのロクラクⅡ事件です。)での経過事実と,似たような事件です。

 ただし,登場人物が有名人なわけです。この判旨で言うY2さんがミュージシャンのファンキー末吉さんのようですね。

 控訴審ということで,一審は,東京地裁平成25年(ワ)第28704号(平成28年3月25日判決)です。
 一審判決から半年くらいでの判決ですので, 結論が大きく変わる所はありません。ただし,時間が経過したため,損害賠償額が大きくなっております。

 上記のとおり,事実認定上,法上は,こうならばこうだろうとしか言いようのない話です。
 被告の方は,色々主張して,確かにJASRACの不実な所は垣間見えるわけです。しかし,だからと言って使用料を払わないで済むかというとそうではありません。

 裁判所の裁判官は,潔癖症というか何というか,そのような廉潔性を非常に気にしますので,払ってない以上,このような結論になるのは致し方ない所です。

 ですが,こうなると被告としてももはや戦い続けるしかないわけで,最高裁に行くのは確実でしょう(最高裁が受理するかどうかは別の問題と思えますが。)。それが被告や,JASRACにとっても,良いことかどうかはわかりません。最高裁でも和解はできますので,そうなることがベストに思えます。