2016年12月22日木曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ワ)22060  東京地裁 請求一部認容

事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年11月24日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 萩原孝基
裁判官 林雅子
「1 争点(1)ア(構成要件B「絶縁ベース」の充足性)について
(1)原告は,被告製品の絶縁ベースが構成要件Bの「絶縁ベース」に該当すると主張する。
(2)そこで判断するに,本件発明における「絶縁ベース」は,特許請求の範囲の記載によれば,樹脂製であって「強度部材として用いる」ものである。そして,「強度部材」とは,その文言上,何らかの強度を有する部材ということができるが,いかなる強度を有するかについては特許請求の範囲の記載上格別の限定はない。そこで,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載をみると,従来のアンテナ装置においては,金属製のアンテナベースが電波を受信する機能部品やアンテナケースを保持する強度部材として用いられていたが(段落【0003】,【0014】),本件発明のアンテナ装置では,アンテナベースを金属製の強度部材とすることなく絶縁ベースで構成できるという効果があり(同【0019】),実施例においても導電ベースを強度部材として用いる必要がない(同【0037】)とされている。そうすると,構成要件Bの「絶縁ベース」は,樹脂製であって,機能部品やアンテナケースを保持するに足りる強度を有する部材を意味すると解することができる。
(3)証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品において電波を受信するアンテナ部はエレメント,エレメントホルダ,コイル,給電端子等で構成されること,アンテナ部の上部に当たるエレメントの頂上付近がアンテナケースの上部内壁にネジ止め固定されること,アンテナ部の下部に当たる給電端子が,絶縁ベースに設けられた孔を通じて,回路基板の差込接点に挿入されること,回路基板は導電ベースの上面に取り付けられ,FM及びAM信号を増幅するアンプ等が実装されていること,導電ベースは絶縁ベースの下面の凹部に固定されること,絶縁ベースとアンテナケースはネジ止め固定されていることが認められる。
 そうすると,被告製品の絶縁ベースは,アンテナケースを保持するとともに,機能部品であるアンテナ部を,その上部についてはアンテナケースを介して,下部については導電ベース及び回路基板を介して,アンテナケース内の所定の位置に保持するものということができる。そして,被告製品はこのような構成を採用することによってアンテナ装置として完成されているのであるから,その絶縁ベースは,樹脂製であって(この点は争いがない。),機能部品及びアンテナケースを保持する足りる強度を有するものと認められる。したがって,被告製品の絶縁ベースは構成要件Bの「絶縁ベース」に該当し,被告製品は構成要件Bを充足すると判断するのが相当である。
(4)これに対し,被告は,被告製品においてはアンテナ部が絶縁ベース以外の部材に固定されているので構成要件Bを充足しないとして,絶縁ベースが全ての機能部品を直接保持することを要するという趣旨の主張をするが,特許請求の範囲及び本件明細書の記載上,そのように解すべき根拠は見当たらない。したがって,被告の主張を採用することはできない。

2 争点(1)イ(構成要件C「傘型エレメント」の充足性)について
(1)原告が,被告製品のエレメントが構成要件Cの「傘型エレメント」に該当すると主張するのに対し,被告は,①エレメントがかざすのは絶縁ベースのみであり,導電ベースをかざしていないこと,②接地面からの高さはエレメントの前部も後部も同じであり,構成要件Cによる効果を奏しないことを理由に,構成要件Cの充足性を争うものである。
(2)そこで判断するに,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「傘型エレメント」は,その全体が「アンテナベースの上に配置される」ものであって,後部が「絶縁ベース上に位置する」,前部が「導電ベース上に位置する」とされており,絶縁ベース及び導電ベースにより構成されるアンテナベース(構成要件B)の「上に」配置され,又は位置することが明らかであるが,これら部材の上下関係についてはこれ以外の限定(例えば,アンテナベースの上面に接しているか離れているか,アンテナベースとの間に他の部材が介在してよいかなど)は付されていない。
 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみると,実施例として,傘型エレメントとアンテナベースが接しておらず,両者の間にエレメントホルダー等の部材が存在する構成が示されている(段落【0025】,図5,6,8,10等)。また,本件発明は,傘型エレメントをアンテナベースに対して構成要件C所定の位置に配置することにより,アンテナ装置の高さを低くしても傘型エレメントの後部の接地面からの実質的な高さを高くすることができ,アンテナ装置の動作利得が向上するという効果を奏するものである(段落【0019】,【0038】【0039】,図40)。そして,傘型エレメントの後部と絶縁ベースの間に導電性の部材が存在するとすればこの効果の発生が妨げられるが,傘型エレメントの前部と導電ベースの間に樹脂等の部材が存在しても支障はないと考えられる。
(3)証拠(甲4,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のエレメントは,略扇形の円弧の中央部を頂部として両側に折り曲げられた形状であり,アンテナケース内において絶縁ベースと導電ベースからなるアンテナベースの上方に配置され,その後部の下方には樹脂製のエレメントホルダーを介して絶縁ベースが,前部の下方にはエレメントホルダー,コイル及び給電端子並びに絶縁ベース及び回路基板を介して導電ベースが,それぞれ配置されていると認められる。そうすると,被告製品のエレメントは,後部が絶縁ベースの上方に,前部が導電ベースの上方に位置するようにアンテナベースの上方に配置されたものであって,構成要件Cの「傘型エレメント」に該当するということができる。
(4)被告の前記(1)の主張のうち①の点は,以上に説示したところに照らし,明らかに失当と解される。また,②の点は,被告製品が本件発明の作用効果を奏しないから技術的範囲に属しない旨をいうものであるが,被告製品のアンテナ装置としての性能が本件発明の実施品より劣るといった事情はうかがわれないから,これを採用することはできない。 」

【コメント】
 シャークフィンアンテナの特許事件,第二幕です。シャークフィンアンテナというのは,町中でも,ちょっとオシャレな国産車や外車のルーフの後ろ側についてあるのをよく見かけます。世の中流行りで動きますから。
 そして,前の事件はここでも紹介しました。今回の事件は前の事件と原被告は同じで,特許権が異なるものです(今回の事件は特許第5655126号で,前の事件は第5237617号です。)。
 クレームはこのようなものです。
A:下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケースと,
B:該アンテナケースが被嵌され,強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと,該絶縁ベースより小型とされ,前記絶縁ベースに固定される導電ベースとからなるアンテナベースと,
C:後部が前記絶縁ベース上に位置すると共に前部が導電ベース上に位置するように前記アンテナベースの上に配置される傘型エレメントと,
D:を具備することを特徴とするアンテナ装置。
 構成要件Cの「傘型」というのが実に気に入りませんが,ここはあまり議論になっていないようです。 
000007 
 これは本件発明ですが,こういう感じです。絶縁ベースとそれより小さい導電ベースからなるアンテナベースがあって,その上にエレメントがあるわけです。
 そして,そのエレメントが絶縁ベースと導電ベースにかぶさる位置関係が重要な発明です。
 しかし,こうしてみますと,「傘型」以外も,「後部」,「前部」など,イマイチ不明確と思われる用語が散見されます。前の事件でのクレームに比べるとちょっと外縁がぼやけた感じのクレームだと思います。

 とは言え,現在の東京地裁の知財部で,我が道を行くプロパテントの長谷川部長の46部ですので,そんなことはお構いなしです。
 構成要件Bは致し方ないと思えますが,構成要件Cについては,弁理士1年めの特許解析を打ち合わせで聞いているような気分になります。勿論,被告製品の分解図などが判決には掲載されておりませんので,仮にそれを見たならば,これは致し方ないなという結論の可能性はあります。
 しかし, じつにあっさりした判示に思えてなりません。
 前の事件でも述べましたが,本丸は知財高裁だと思いますので,原告もそこでの結論が出るまではあまり喜ばない方が良いのではないかと思います。

【追伸】
 本日(2017.1.17),特許権者からIRがあり,本件と前件で,和解が成立したそうです。
 この発表を見ると,原告の勝ち筋和解だった模様です。

 ですので,この事件はこれで終了ということになります。知財高裁での判決を見たかった所ですが,致し方ないでしょう。