2017年1月13日金曜日

侵害訴訟 特許  平成27(ワ)28467 東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成28年12月20日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川 浩二
裁判官 萩原孝基
裁判官 中嶋邦人
 
原告は,本件発明等における「緩衝剤」の意義につき,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれると主張する。この主張を採用することができなければ,その余の構成要件充足性を検討するまでもなく,被告製品は本件発明等の技術的範囲に属しないことになる。他方,原告の上記主張を前提とした場合に本件特許に無効理由があるとすれば,原告の請求は棄却されるべきものとなる。そこで,まず,無効理由の有無について検討する。
1 争点(2)イ (乙4発明に基づく新規性又は進歩性欠如)について
 本件発明等における「緩衝剤」の意義に関する原告の上記主張を前提とした無効理由( 争点(2)イ)から検討する。
(1)乙4発明に基づく新規性欠如について
ア 本件特許の優先日前に頒布された乙4公報の記載(乙3公報の【特許請求の範囲】請求項1,6頁~8頁)によれば,乙4発明は,濃度が1~5mg/mlのオキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含するpHが4.5~6の安定オキサリプラチン溶液組成物であることが認められる。
 本件発明等と上記の乙4発明を対比すると,シュウ酸の量につき,本件発明等が構成要件G及びIに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙4発明がこれを特定していない点で相違するから,本件発明等は乙4発明との関係で新規性を有するものと認められる。
イ これに対し,被告は,乙4公報の追試結果によれば,乙4発明におけるシュウ酸のモル濃度は構成要件Gに規定するモル濃度の範囲内にある旨主張する。
 そこで判断するに,乙4公報の実施例は水溶液の調製条件としてオキサリプラチンの濃度を2mg/mlとしているところ(乙3公報6頁4行目),オキサリプラチンの濃度はオキサリプラチン水溶液から自然に生成するシュウ酸のモル濃度に影響するものと解されるから,被告が提出するオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする追試結果(乙15の6)は正確な再現結果とはいい難い。 次に,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとしている追試結果(乙29)については,乙4公報の実施例の調整条件と比較すると,オキサリプラチン水溶液の調整方法,出発原料のオキサリプラチンの製造会社が異なる点,水溶液をガラスバイアル中に無菌的に充填しているとは認められない点などでそれぞれ相違しており,これら調整条件の相違が不純物(シュウ酸もこれに含まれる。)の発生量等に全く影響しないとは考え難い。
 これらのことからすれば,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとする追試結果についても正確な再現結果ということはできない。
 したがって,被告が提出する追試結果に基づいて乙4公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできない。
(2)乙4発明に基づく進歩性欠如について
ア 前記(1)アで認定したとおり,本件発明等と乙4発明は,オキサリプラチン水溶液に包含されるシュウ酸の量につき,本件発明等が構成要件G及びIに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙4発明がこれを特定していない点で相違するので,以下,乙4発明に接した当業者において上記相違点に係る構成に至ることが容易か否かについて検討する。
イ 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとするオキサリプラチン水溶液を,シュウ酸を添加することなく,乙4公報に記載された容器,容量,撹拌速度,温度等の条件に準じて調製し(ただし,栓のコーティングの有無,オキサリプラチン溶液の充填方法等の調整条件の一部が異なる。),
 これに含まれるシュウ酸のモル濃度を測定した結果,構成要件Gに規定する範囲内にあるモル濃度(5~8.35×10-5M)のシュウ酸が検出された。(甲13,乙15の6)
(イ)前記(ア)と同様に,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとするオキサリオプラチン水溶液を調製してシュウ酸のモル濃度を測定した結果,構成要件G及びIに規定する範囲内にあるモル濃度(8×10-5M)のシュウ酸が検出された。(乙29)
(ウ)乙4公報には,「クロマトグラムのピーク分析は,不純物の含量と百分率の測定を可能にし,そのうち主要なものは蓚酸であると同定した」として,乙4発明のオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸の濃度を測定した旨記載されている(乙3公報7頁16~17行)。(乙3,4)
ウ 上記イ(ア)及び(イ)の各認定事実によれば,少なくともオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を乙4公報に記載された条件に準じて調製すれば,調製条件に多少の差異があったとしても,構成要件G及びIに規定するモル濃度の範囲内のシュウ酸を含有するオキサリプラチン溶液組成物が生成されると認められる。そして,乙4発明におけるオキサリプラチンの濃度が1~5mg/mlの範囲に設定されていること(前記(1)ア),乙4発明のオキサリプラチン水溶液についてシュウ酸の濃度が測定されていたこと(上記イ(ウ))からすれば,オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとするオキサリプラチン水溶液を調製してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であるということができる。また,前記イ(ア)の各測定経過をみても,シュウ酸のモル濃度を構成要件G及びIに規定されている範囲内とすることが格別困難であるとはうかがわれない。さらに,本件明細書の記載上,緩衝剤の濃度を上記範囲とすることに何らかの臨界的意義があるとは認められない。
 そうすると,乙4発明に接した当業者がオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を調製し,そのシュウ酸のモル濃度を構成要件G及びIに規定する範囲内のものとすること,すなわち本件発明等と乙4発明の相違点に係る構成に至ることは容易であったというべきである。したがって,本件発明等は進歩性を欠くものと認められる。」

【コメント】
 例のオキサリプラチンの特許の(特許第4430229号)事件のものです。
 年末,これで最後?と思ったのですが,どうやら違ったようです。
 
  で,面白いのが,これも46部の判断ということです。

 そして,今回,前の事件のように構成要件充足性があると判断したのではなく,そんなに広いクレーム解釈をすると,無効になりまっせ,ということで足切りをしたという点です。
 
 何だかこういうのをヒラメ裁判官って言うのでしょうかね。ポリシーがあってやっていたのではないことがよくわかります。自分以外の全部の部が違う判断をしたからと言って,逃げを打つことはないと思います。堂々と,俺はこう思う!文句あっか!でいいのではないでしょうか。
 
 原告もこれじゃあ浮かばれませんね。
 
 ということで,まとめましょう。 

1 平成27(ワ)12416  46部 被告1 差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2 平成28(ワ)15355  29部 被告1 賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3 平成27(ワ)28468   40部 被告2 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
4 平成27(ワ)12415   40部 被告3 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
5 平成27(ワ)28699等 40部 被告4,5,6 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈 
6 平成27(ワ)29001  47部 被告7 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
7 平成27(ワ)29158   40部 被告8 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈 
8 平成28(ネ)10031   知財高裁3部 被告1 1の控訴審 請求棄却 被告寄りクレーム解釈 
9 平成27(ワ)28467  46部 被告9 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
 
 しかし,原告はアグレッシブですね。