2017年3月10日金曜日

侵害訴訟 不正競争  平成26(ワ)8922 東京地裁 請求一部認容


事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成29年2月17日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官    東  海  林      保
  裁判官 廣 瀬    孝  
 裁判官  勝   又  来  未  子  
 
「(1) 虚偽の事実の告知の有無について
 甲4書簡には,原告製品について「本製品は添付の弊社保有特許(特許第4444410号,発明の名称:歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール)の請求項1に関連するものと思料しております。」と記載されているところ,本件発明に係る特許に「関連する」という文言は,本件発明の技術的範囲に属する可能性があることを指摘するものと理解するのが素直である。そして,被告の常務取締役であるAが,バイオデントに送付した甲23メールには,本件発明に係る特許について「使用許諾をすべきでないとの意見が大勢を占めました。」と記載されており,被告がバイオデントに対し,本件発明に係る特許の実施許諾をする意思がないことが明らかにされている。これらの事実を考慮すると,被告は,バイオデントに対し,原告製品が本件発明の技術的範囲に属しているという事実及び被告が本件発明に係る特許について実施許諾をする意思がないという事実を通知したということができる。そして,特許権は独占的排他的権利であり,特許権者において実施許諾をする意思がない場合には,当該特許を業として実施している者は実施行為を中止するほかないところ,実際にバイオデントは原告製品の販売を中止しているから,バイオデントも,本件各告知は原告製品の輸入及び販売の中止を求めるものと認識していたものと認められることからすれば,甲4書簡による本件告知1の意義がやや不明瞭であるとしても,甲23メールによる本件告知2を併せてみれば,本件各告知は,被告が,バイオデントに対し,本件特許権侵害を理由として本件発明の実施行為である原告製品の輸入及び販売の中止を求める侵害警告に当たると認めるのが相当である。
 そして,被告の上記侵害警告は,バイオデントが原告から輸入して販売する原告製品が特許侵害品である旨の告知であるから,原告の営業上の信用を害する事実の告知であると認められる。
 ところで,本件発明に係る特許については,冒認出願であることを理由として,これを無効とすべき旨の審決が確定しており,同特許権は初めから存在しなかったものとみなされるので(特許法125条),バイオデントによる原告製品の輸入及び販売は,被告の特許権を侵害しないし,また,被告は特許権に基づいて権利行使することはできない。
 したがって,被告のバイオデントに対する本件各告知は,本件発明に係る特許が存在しないにもかかわらず,原告製品の輸入及び販売がその特許権を侵害するという事実を告知したものであって,虚偽の事実の告知に当たると認めるのが相当である。 
(2) 違法性及び故意過失の有無について
 次に,本件各告知行為の違法性及び被告に故意又は過失があったといえるかにつき,検討する。
 登録された特許権について,後にその有効性が争われて結果として無効とする審決が確定したことによって特許権が存在しないとみなされたために,当該特許権の特許権者による侵害警告行為が不競法2条1項14号の虚偽の事実の告知に当たる場合において,当該特許権者が損害賠償責任を負うか否かを検討するに当たっては,無効理由が告知行為の時点において明確なものであったか否か,無効理由の有無について特許権者が十分な検討をしたか否か,告知行為の内容や態様が社会通念上不相当であったか否か,特許権者の権利行使を不必要に委縮させるおそれの有無,営業上の信用を害される競業
者の利益を総合的に考慮した上で,当該告知行為が登録された権利に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法性の有無及び告知者の故意過失の有無を判断すべきである。
 これを本件について検討すると,前記1(1)のとおり,被告は,本件発明がAとBによる共同発明であり,しかも,本件特許出願においてBを発明者の一人として掲げていたにもかかわらず,Bの同意を得ることなく本件特許を出願したものであるが,Bが被告に対し,本件発明に係る特許を,被告が単独で出願することについて明示の同意をしたことはないのであるから,本件各告知行為の時点において,本件特許出願に冒認出願若しくは共同出願違反の無効理由があることが明らかであり,被告は,本件特許出願に当たり,Bの同意を得ていないことを当然に認識していたか,少なくとも容易に認識し得る状況であったというべきである。また,仮に被告が本件発明はAの単独発明であると信じていたか,又は,Bの黙示の同意があるものと信じていたとしても,Bが,本件特許出願に関し,発明者名の記載の順番にこだわっていたという事実,及び本件特許に対応する本件米国特許についてはBが譲渡書を提出せず,そのために米国においては被告とBの両者が権利者であるものとして特許出願したという経緯に照らせば,被告において,Bによる本件発明に対する寄与があること及びBに本件発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡する意思がないことは容易に推測できるというべきであるから,冒認出願という無効理由の有無について特許権者である被告が十分な検討をしていたということはできない。さらに,前記(1)で説示したとおり,本件各告知は,原告に対してではなく,原告製品の販売業者であるバイオデントに対して直接原告製品の輸入及び販売の中止を求め,話し合いに応じることなく一方的に実施許諾を拒否する内容のものと認められるから,被告が本件特許権の無効理由の有無について十分な検討をしていなかったことを踏まえれば,本件各告知は,その内容や態様に照らし社会通念上相当ということはできない。
 そして,上記のとおり,被告は本件特許について冒認出願の無効理由があることを知り得たといえること及び本件各告知行為が,バイオデントによる原告製品①の日本国内での販売を中止させるという重大な結果を生じさせるものであることからすれば,被告には,本件各告知行為前に,Bに発明の経緯に係る事情や特許を受ける権利の譲渡に関する意向を確認するなどの調査をすべき義務があったというべきである。ところが,被告は何ら調査をすることなく,本件各告知行為に及んだ。
 以上の事実を総合考慮すると,被告のバイオデントに対する本件各告知行為には,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法があり,被告には,バイオデントに対し本件各告知による虚偽の事実の告知をしたことについて,少なくとも過失があるといわざるを得ない。  」

【コメント】
 不正競争防止法の信用毀損行為についての事件です。
 特許権の権利行使が,それに当たるかという最近よくあるパターンです。
 
 本件で珍しいのが,国内代理店への警告書,つまり外国製品であったため,権利行使先はそこしかないだろうという所に警告書を出したのにも関わらず,結局信用毀損行為だとされた点です。 

 判旨のとおりそれには深い訳がありまして,共同発明者のBさんから特許を受ける権利の譲渡が無かった点です。判旨でいうAさんは被告である特許権者に長く勤めていた開発者であり,Bさんはカナダの矯正歯科医だった模様です。
 
 アメリカの特許の方は,本件の被告とBさんの共有になっていた様で,そんなこんなことからすると,特許を受ける権利の譲渡は無かったのでしょうね。

 判旨にもある審決取消訴訟の方は,こちらです。

 代理店に権利行使された今回の原告は色々調べて,冒認の無効事由があるのではないかということに気づいたのでしょうね。権利行使された日本の特許とそれに対応のアメリカの特許とで,特許権者が違っていたということがヒントになったのだと思います。
 
 しかし,そこそこ多くの会社で権利の取得過程を知らずに権利行使する場合ってあるような気がします。小さい会社で特許の担当者が一人のような所はよくわかると思いますが,出願課と係争課みたいに分かれている所では,冒認の可能性など思いもしなかった,こんなこともあり得るのではないでしょうか。
 
 権利行使の際は,一件書類等をよく熟読してからやった方がいいでしょうね。