2017年3月8日水曜日

侵害訴訟 特許  平成27(ワ)4461  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成29年2月10日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官東  海  林    保 
裁判官 廣瀬   孝 
裁判官  勝又 来未子

「2  争点(1)ア(構成要件1Bの「値幅を示す情報」の充足性)について
(1)  証拠(甲7,乙4)によれば,被告サービス1においては,①「通貨ペア」,②「注文種類」,③「参考期間」,④「想定変動幅」,⑤「ポジション方向」及び⑥「対象資産(円)」を顧客からの入力情報として受信して受け付け,これらの情報から複数個の「注文情報群」(「新規指定レート」(例:119.07円で買う)及び「利食いレート」(例:120.24円で売る)の組合せ)を自動的に算出するものであって,顧客がこれをそのまま追認するか,顧客がこれを適宜変更した後に,「注文」アイコンをクリック(タップ)することにより,取引が開始するものと認められる。
  そして,上記各証拠によれば,被告サービス1では,「注文情報群」を算出するに当たり,対象の通貨を所定の価格で買(売)った後,相場が予想に反して変動した場合に,追加で対象の通貨を買う(売る)場合の値幅情報を売買注文申込情報として入力する欄はないと認められるのであって,それゆえ,値幅情報を売買注文申込情報として受信して受け付けてはいないというべきである。   
 したがって,被告サービス1では,構成要件1Bの「値幅を示す情報」を「売買注文申込情報として受信して受け付け」ていないものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張に対する判断
 この点に関して原告は,本件発明1で金融商品取引管理システムが受信して受け付けるのは「値幅を示す情報」であるから,その内容は値幅の数値そのものに限られず,値幅を「示す」情報であれば足りるとした上,被告サービス1においては,顧客の入力情報のうち④「想定変動幅」及び⑥「対象資産(円)」の値により「値幅」(ポジション間隔)が示されているから,④「想定変動幅」及び⑥「対象資産(円)」の数値が構成要件1Bにいう「値幅を示す情報」に当たると主張する。
  しかし,「示す」とは,「物事が見る人・聞く人にある事柄をわからせる。表示する。意味する。」(広辞苑第6版1287頁〔乙9〕)という意味であるから,「値幅を示す情報」とは,見る人に対して値幅を分からせ,表示ないし意味する情報をいうと認められる。
  そして,前記第2,2(7)によれば,④「想定変動幅」とは「通貨ペア」の為替レートの変動幅の予測値を表示・入力する欄にすぎず,⑥「対象資産(円)」とは取引に使用する資産(日本円)を入力する欄にすぎないのであって,いずれもこれらの数値から直ちに値幅そのものを理解することはできず,これらの数値が値幅を表示ないし意味しているということもできない。原告は,被告サーバにおいて④「想定変動幅」及び⑥「対象資産(円)」の数値から値幅を決定していることを指摘するが,仮にそうであるとしても,④「想定変動幅」及び⑥「対象資産(円)」の数値を見ただけで直ちに値幅が分かるということにはならないのであって,この点をもって④「想定変動幅」及び⑥「対象資産(円)」の数値自体が「値幅を示す情報」に該当するというのは困難である。   したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上によれば,被告サービス1は構成要件1Bの「値幅を示す情報」を充足せず,争点(1)アにおける原告の主張は理由がない。」

「5  争点(1)エ(構成要件1Bの「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」についての均等侵害の成否)について
(1) 均等侵害
  特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等する製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①その部分が特許発明の本質的部分ではなく(以下「第1要件」という。),②その部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(以下「第2要件」という。),③そのように置き換えることに,特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(以下「第3要件」という。),④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく(以下「第4要件」という。),かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(以下「第5要件」という。)は,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
(2) 相違点
  本件発明1の構成要件1Bにおいて,顧客の入力に係る情報として,「注文入力受付手順」で「売買注文申込情報として受信して受け付ける」と規定されているものは,以下の五つの情報である(当事者間に争いがない。)。
1B-1:売買を希望する前記金融商品の種類を選択するための情報
1B-2:前記金融商品の売買注文における,注文価格ごとの注文金額を示す情報
1B-3:前記金融商品の販売注文価格又は購入注文価格としての一の注文価格を示す情報
1B-4:一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で販売した後に他の価格で購入した場合の利幅又は一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で購入した後に他の注文価格
で販売した場合の利幅を示す情報
1B-5:前記注文が複数存在する場合における該注文同士の値幅を示す情報
  これに対し,被告サービス1において顧客の入力に係る情報は,①「通貨ペア」,②「注文種類」,③「参考期間」,④「想定変動幅」,⑤「ポジション方向」,⑥「対象資産(円)」,⑦「数量」及び⑧「注文情報群」という合計八つの情報である(前記第2,2(7))。
  そして,このうち①「通貨ペア」は構成要件1B-1に,⑦「数量」は構成要件1B-2に,⑧「注文情報群」のうち「新規指定レート」は構成要件1B-3に該当するものと認められる(被告も明らかに争わない。)。
  したがって,顧客の入力に係る情報に関する本件発明1(構成要件1B)  100 と被告サービス1の相違点は,本件発明1では構成要件1B-4(利幅を示す情報)及び構成要件1B-5(値幅を示す情報)を入力するのに対し,被告サービス1では②「注文種類」ないし⑥「対象資産(円)」を入力する点にあるものというべきである。
  そこで,以下,被告サービス1において②「注文種類」ないし⑥「対象資産(円)」を入力することが,本件発明1の構成要件1B-4(利幅を示す情報)及び構成要件1B-5(値幅を示す情報)を入力する場合と均等なものといえるかについて検討する。
(3) 第1要件(非本質的部分)について
ア  特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
  そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。
  ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。
  また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第10014号)特別部判決参照)。
イ  原告は,本件発明1の本質的部分は「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行うこと」及び「その注文と約定を繰り返すようにしたこと」にとどまると主張する。
  この点,確かに,本件明細書等1には,本件発明1の課題として,「本発明は・・・システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく指値注文による取引を効率的かつ円滑に行うことができる金融商品
取引管理方法を提供することを課題としている。」(段落【0006】)との記載がある。この記載に,「請求1・・・に記載の発明によれば,・・・一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格
にわたって一度に注文できる。」(段落【0017】),「請求項1・・・に記載の発明によれば,・・・約定した第一注文と同じ第一注文価格における第一注文の約定と,約定した第二注文と同じ前記第二注文価格における前記第二注文の約定とを繰り返し行わせるように設定することにより,第一注文と第二注文とが約定した後も,当該約定した注文情報群による指値注文のイフダンオーダーを繰り返し行うことが可能になる。」(段落【0018】)との各記載も併せれば,原告の主張する「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行うこと」及び「その注文と約定を繰り返すようにした  102 こと」との部分が本件発明1の本質的部分,すなわち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるように見えなくもない。
  しかし,本件発明1に係る特許(本件特許1)の出願時の従来技術に照らせば,本件明細書等1に本件発明1の課題として記載された「システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく指値注文による取引を効率的かつ円滑に行うことができる金融商品取引管理方法を提供すること」(段落【0006】)は,本件発明1の課題の上位概念を記載したものにすぎず,客観的に見てなお不十分であるといわざるを得ない。
 以下,詳述する。
ウ  本件特許1に係る出願の原出願日(平成19年12月19日)よりも前に公開された文献である引用文献1には,以下の記載がある。 
・・・
エ  以上の記載によれば,引用文献1には,自動売買条件に従って複数の買取り値及び売込み値を設定し,発注が約定すると自動売買テーブルに応じて自動買取りと自動売込みが発注され,この約定と発注が繰り返されるという技術が開示されているというべきである。
  そうすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載のうち,原告がその本質的部分として主張する「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行うこと」との部分及び「その注文と約定を繰り返すようにしたこと」との部分は,いずれも引用文献1に開示されていることになるから,上記各部分をもって従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるということはできない。
オ  そもそも,本件発明1に係る特許請求の範囲は前記第2,2(3)及び(4)アのとおりであり,本件明細書等1の記載は前記1(1)のとおりである。
  これによれば,本件発明1が解決しようとする課題は,金融商品の価格は常に不規則に変動し,正確に予測することができないため,指値注文の場合,当該金融商品の価格があらかじめ指定した金額まで下降(又は上昇)する直前で上昇(又は下降)してしまう場合や,あらかじめ指定した金額よりも下降(又は上昇)してしまい,顧客が実質的な不利益  108 を被るおそれがあるところ,従来技術によればこのような不利益のおそれを回避することができず(本件明細書等1の段落【0004】),さらに,指値注文において注文件数の極端な増大や注文キャンセルの頻発が起こった場合,金融商品の取扱業者も業務の煩雑化や事実上の損害の発生を被るおそれがあり,特に取扱対象の金融商品が外国為替の場合,顧客と銀行とを仲介する取扱業者が銀行に事実上の損害を与えてしまい,銀行からの信用を失うおそれがあるのであって,指値注文による取引を行う場合,金融商品の取扱業者のリスクも回避することができない(同段落【0005】)というところにある。
  そこで,「請求項1・・・の発明」によれば「売買注文申込情報」に基づいて金融商品の注文情報を生成する注文情報生成手順を有し,注文情報生成手順においては「一の売買注文申込情報」に基づいて注文情報群を生成することにより,金融商品を売買する際,一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格にわたって一度に注文できるとしたものであり,これにより,顧客のリスクを軽減させ得る指値注文を一の注文手続により簡易に行うことができ,顧客のシステム利用の利便性を向上させることができるほか,金融商品の指値注文における金融商品の取扱業者及び顧客の不利益を回避し,システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく指値注文による取引を効率的かつ円滑に行うことができるというのである(同段落【0017】)。
  以上の各記載に,上記エのとおり,引用文献1には既に「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行う」という技術が開示されていたことも併せれば,本件発明1は,単に一の注文手続で複数の価格にわたって一度に注文を行うだけではなく,「請求項1・・・の発明」による「売買注文申込情報」,すなわち,「金融商品の種類」(構成要件1B-1),「注文価格ごとの注文金額」(構成要件1B-2),「注文価格」(構成要件1B-3),「利幅」(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す各情報に基づいて,同一種類の金融商品を複数の価格について指値注文する注文情報からなる注文情報群を生成することにより,金融商品を売買する際,一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格にわたって一度に注文できるという点にその本質的部分があるというべきである。 
カ  これを被告サービス1についてみると,被告サービス1では「利幅」(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す情報が入力されないのであるから,本件発明1と被告サービス1の相違点が特許発明の本質的部分ではないということはできない。
  したがって,被告サービス1については,均等の要件のうち第1要件を満たさない。
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(構成要件1B-2),「注文価格」(構成要件1B-3),「利幅」
(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す各情報
に基づいて,同一種類の金融商品を複数の価格について指値注文する注
文情報からなる注文情報群を生成することにより,金融商品を売買する
際,一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格に
わたって一度に注文できるという点にその本質的部分があるというべき
である。
カ  これを被告サービス1についてみると,被告サービス1では「利幅」
(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す情報が
入力されないのであるから,本件発明1と被告サービス1の相違点が特
許発明の本質的部分ではないということはできない。
  したがって,被告サービス1については,均等の要件のうち第1要件
を満たさない。
(4) 第2要件(置換可能性)について
  次に,均等の第2要件について検討する。
  原告は,本件発明1の課題は「専門的な知識がなく,必ずしも正確に相場変動を予測することができなくても,また,常に相場に付ききりとならなくても,FX取引により所望の利益を得ること」にある旨主張している。
  しかし,仮に本件発明1の課題が原告の主張するところにあるとしても,本件発明1と被告サービス1とは,課題解決原理が全く異なる。
  すなわち,本件発明1では,顧客に利幅(構成要件1B-4)及び値幅(構成要件1B-5)をはじめとして全ての注文を直接的かつ一義的に導き出すに足りる情報を入力させた上,これにより,買いの指値注文及び売りの指値注文からなる注文のペアを複数生成させ,この複数の注文のペアからなる注文を行うことで,上記課題を解決している。
  一方,被告サービス1では,顧客が③「参考期間」を選択しさえすれば,④「想定変動幅」を提案し,専的な知識が必要である利幅(構成要件1B-4)及び値幅(構成要件1B-5)を顧客に入力させることなく,複数の注文のペアからなる注文を行うことで,上記課題を解決している。すなわち,被告サービス1では,顧客に全ての注文を直接的かつ一義的に決定させるのではなく,顧客には専門的な知識が必要とされる情報を入力させないまま,注文を行わせるものである。
  このように,本件発明1と被告サービス1は,金融商品の相場変動を正確に予測することができなくてもFX取引による所望の利益を得るという課題を,顧客に利幅(構成要件1B-4)及び値幅(構成要件1B-5)という専門的な知識が必要である情報を入力させることで解決するか(本件発明1),それともこれらの情報を入力させないまま解決するか(被告サービス1)という課題解決原理の違いがあり,そのため作用効果も異なってくるものといわざるを得ない。
  したがって,均等の第2要件に関する原告の主張は理由がない。 」

【コメント】
  本件は,ネット証券等における注文の方法等についての特許権侵害訴訟の事案です。有り体に言えば,フィンテックの特許侵害事件です。
  原告つまり特許権者がマネースクウェアで,被告は外為オンラインです。
 クレームからです。
「  本件発明1(5525082号の請求項1)
1A      相場価格が変動する金融商品の売買取引を管理する金融商品取引管理システムにおける金融商品取引管理方法であって,
1B      売買を希望する前記金融商品の種類を選択するための情報と,前記金融商品の売買注文における,注文価格ごとの注文金額を示す情報と,前記金融商品の販売注文価格又は購入注文価格としての一の注文価格を示す情報と,一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で販売した後に他の価格で購入した場合の利幅又は一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で購入した後に他の注文価格で販売した場合の利幅を示す情報と,前記注文が複数存在する場合における該注文同士の値幅を示す情報と,のそれぞれを,前記金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報として受信して受け付ける注文入力受付手順と,
1C      該注文入力受付手順によって受け付けられた前記売買注文申込情報に基づいて,選択された前記種類の前記金融商品の注文情報を生成する注文情報生成手順と,
1D      前記金融商品の前記相場価格の情報を取得する価格情報受信手順と,
1E      前記売買注文申込情報における前記注文価格と前記利幅とに基づいて,前記他の注文価格を算出するための第二注文価格算出手順とを有し,
1F      前記注文情報生成手順においては,前記売買注文申込情報に基づいて,前記注文情報として,同一種類の前記金融商品について,前記一の注文価格を一の最高価格として設定し,該一の最高価格より安値側に,それぞれの値幅が前記売買注文申込情報に含まれる前記値幅となるようにそれぞれの前記注文価格を設定し,設定されたそれぞれの前記注文価格としての第一注文価格について買いもしくは売りの指値注文を行う第一注文情報, 前記第二注文価格算出手順において算出された前記他の価格を他の最高価格として設定し,該他の最高価格より安値側に,それぞれの前記第一注文に対し,購入又は販売が行われた前記第一注文に基づいて販売又は購入が行われたときの前記利幅が前記売買注文申込情報における前記利幅となるようにそれぞれの前記注文価格を設定し,該設定されたそれぞれの前記注文価格としての第二注文価格について前記買いの第一注文に対しては売りの,前記売りの第一注文に対しては買いの指値注文を行う第二注文情報 からなる注文情報群を複数生成し,
1G      生成された前記注文情報群を注文情報記録手段に記録し,
1H      一の前記売買注文申込情報に基づいて生成されたそれぞれの前記注文情報群について,有効な注文である前記第一注文の前記第一注文価格と前記金融商品の相場価格とが一致し,次いで有効な注文である前記第二注文の前記第二注文価格と前記相場価格とが一致することで前記第一注文と前記第二注文とが約定した場合,次の前記注文情報群の前記第一注文情報を有効とし,約定した前記第一注文と同じ前記第一注文価格における前記第一注文の約定と,約定した前記第二注文と同じ前記第二注文価格における前記第二注文の約定とを繰り返し行わせるように設定することを特徴とする,
1I      金融商品取引管理システムにおける金融商品取引管理方法
。 」

 ビジネスモデル特許に有りがちな,長くて複雑なクレームですね。パッと見ただけでもこれらの構成要件そのままに該当するのはまあ至難の業だろうなあと思えるほどです。
 要するにデッドコピー対策という所でしょう,実質的には。

 ポイントは構成要件1Bの「利幅を示す情報」の所です。被告サービスにおいては,こういう情報を入力ささせる欄がなく,売買注文申込情報として,構成されてなかったという所です。
 これも有りがちです。フィンテック関係と言おうが,ビジネスモデル特許と言おうが何でもいいのですが,結局ソフトウエア関連発明なので,ハードウェアとの協働を具体的に書いておかないとそもそも特許がとれないわけです。
 そうすると,勢い現実のシステムの手順をそのままクレーム化してしまい,非常に狭い権利として成立しがちです。 なので,もう少しぼやかしたクレームにしておけば良かったかなあとも思えるのですが,これは後知恵ですね。

 被告サービスと本件特許との違いが一番よくわかるのは,均等論の第二要件の所です。ですので,中途半端に上記のとおり,第二要件までを引用した次第です。
 このくらい違うと実質的に違うと言えますので,たとえぼやかしたクレームにしても,技術的範囲に入るのは難しい所でしょうね。

 なお,その均等論については,マキサカルシトール大合議の規範を使っています。実務はこれで行くのでしょうね。
 あと,本件発明3については,分割要件違反,サポート要件違反という最近では珍しい無効の抗弁で権利行使不能とも判示されております。参考になります。