2017年3月2日木曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)2720  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成29年2月16日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 廣瀬達人
裁判官 村 井 美喜子

「(1) 「突起・板体の突起物」の意義
 一般的に,「突起」とは,「部分的につきでること。また,そのもの」などとされている(広辞苑第6版2020頁)。
 そして,特許請求の範囲には,「前記防止手段(判決注:生海苔の共回りを防止する防止手段。構成要件A3)を,」(構成要件B)「突起・板体の突起物とし」(構成要件B1)と記載されるにとどまり,文言上,突起物の形成手段や形状は特定されていない。
 また,本件訂正明細書には,突起物の実施例として,「防止手段6は,一例として寸法差部Aに設ける。図3,図4の例では,選別ケーシング33の円周端面33bに突起・板体・ナイフ等の突起物を1ケ所又は数ヶ所設ける。また図5の例は,生海苔混合液槽2の内底面21に1ケ所又は数ヶ所設ける。さらに他の図6の例は,回転板34の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a(一点鎖線で示す。)に切り溝,凹凸,ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ所,或いは全周に設ける。また図7の例は,選別ケーシング33(枠板)の円周面33a(内周端面)に回転板34の円周端面34bが内嵌めされた構成のクリアランスSでは,このクリアランスSに突起・板体・ナイフ等の突起物の防止手段6を設ける。また図8の例では,回転板34の回転方向に傾斜した突起・板体・ナイフ等の突起物の防止手段6を1ケ所又は数ヶ所設ける。」(段落【0026】)と記載されているが,その他,「突起」の上記意義を限定すべきことを示す記載は見当たらない。
 以上によれば,構成要件B1の「突起・板体の突起物」の「突起」とは,部分的に突き出ている部分又は部分的に突き出たものであり,「突起物」とは,部分的に突き出たものであると解するのが相当である。
⑵ 「突起・板体の突起物」の充足性
ア 本件回転円板の構成
 前記第2の2(前提事実)⑶イ,証拠(甲21の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,本件回転円板の形状につき,次のとおりと認められる。
(ア) 本件回転円板には,1か所以上,凸部Dが形成されている。
(イ) 凸部Dは,回転円板3の側面部(端面)3a1(回転円板3の側面部(端面)3aの一部の面と共通である。),平面部3b1(回転円板3の表面3bの一部の面と共通である。)及び2カ所の径方向側面部(側面壁)3cなどから構成され,その平面形状は略扇形(中心を回転円板3の中心と共通にする。)である。
(ウ) 径方向側面部(側面壁)3cと側面部(端面)3a1の各面の交差によって,エッジxが形成される。 
(エ) 平面部3b1は,径方向側面部(側面壁)3c及びエッジxによって回転円板の表面の一部である回転円板側凹部の底面部3b2との間で段差を形成し,凸部Dを突出させる。
(オ) 凸部Dの平面部3b1と回転円板側凹部Eの底面部3b2の段差(高低差)は,エッジxの長さと略同一であり,略1mm弱ないし5mm程度である。
(カ) 平面部3b1と径方向側面部(側面壁)3cの各面が交差する部分には,上部境界線yが,底面部3b2と径方向側面部(側面壁)3cの各面が交差する部分には下部境界線z がそれぞれ現れる。
(キ) 凸部Dの間に凹部Eが形成され,又は,凹部Eの間に凸部Dが形成され,回転円板3の円周に沿う方向で見ると,凸部Dと凹部Eが交互に現れ,両者の個数は必ず同数となる。
(ク) 回転円板側凹部の底面部3b2との間で直線状の境界線を呈することによって,回転円板の外周側に薄板状部材を取り付けたような外観を呈するものである。すなわち,凸部Dは,凹部Eを配置することによって,回転円板の凹部の底面部3b2との間で側面壁(径方向側面部)3cによる段差を形成する
イ 充足性について
 上記アによれば,本件回転円板の凸部Dは,側面部(端面)3a1(回転円板3の側面部(端面)3aの一部の面と共通である。),平面部3b1(回転円板3の表面3bの一部の面と共通である。)及び2カ所の径方向側面部(側面壁)3cなどから構成され,平面部3b1,径方向側面部(側面壁)3c及びエッジxによって回転円板の表面の一部である回転円板側凹部の底面部3b2との間で段差を形成されることによって突出させられており,凸部Dの平面部3b1と回転円板側凹部Eの底面部3b2の段差(高低差)は,エッジxの長さと略同一の1mm弱ないし5mm程度である。また,回転円板3の円周に沿う方向で見ると,凸部Dは,凹部Eと交互に配置されている。
 このように,凸部Dは,底面部3b2から平面部3b1に向かって部分的に突き出ているといえ,「突起(物)」の意義が上記⑴のとおりであることからすれば,構成要件B1の「突起・板体の突起物」に該当するというべきである。
 よって,本件装置は,構成要件B1を充足する。」

【コメント】
 生海苔異物分離除去装置の発明の特許権侵害訴訟の事件です。

 そういう紹介をすると,長く特許の業界に居る方は,あ,あの均等論が問題になったものですか~となるのですが,それとは事件が違います。

 特許番号が,特許第3966527号で,平成10年に出願になったものです。

 クレームは以下のとおりです。
A1 生海苔排出口を有する選別ケーシング,
A2 及び回転板,
A3 この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,
A4 並びに異物排出口
A5 をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
B 前記防止手段を,
B1 突起・板体の突起物とし,
B2 この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした
C 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。

 クレームはそれほど複雑ではないのですが,機械の発明は図がないとやはり理解しにくいです。
 
 これが全体図です。回転できなくて申し訳ない所ですが,首を曲げて見てください。
 次に,異物分離除去部分を拡大した図です。
 これも,首を曲げて見てください。
 最後に,回転板の平面図です。
 
 この図に,漸く共回りの防止装置が現れます。
 要するに,遠心分離の原理で,異物分離をするのですが,その際のフルイに当たるクリアランスの所に,突起物を設け,共回りを防止するというものです。

 で,本件ではその「突起・板体の突起物」のクレーム解釈が問題になったものです。
 被告は被告製品にあるのは,凸凹部であり,突起物ではないと主張し,原告は突出しているのは確かなんだから,突起物に相違ない,と主張したわけです。良く有るパターンです。 
 
 そして,裁判所は,クレーム解釈について限定解釈をすることなく,ほぼ辞書的意味と解して,構成要件充足性を認めたわけです。

 限定解釈しても良かったと思いますが,その辺の機微は非常に難しい所です。

 ちなみに,被告旧製品についての,控訴審判決(やはり一部請求認容の一審判決です。)もほぼ時期を同じくして出ております(知財高裁 平成28(ネ)10082,平成29年2月22日判決)。ただ,こちらの事件は旧製品を対象としたもので,構成要件充足性には争いがなかったらしく,クレーム解釈の話はありません。
 それ故,地裁の判決ですが,こちらの事件を紹介した次第です。
 最近の個人的興味がクレーム解釈なものでして,進歩性の方に興味のある皆様スミマセン。

【追伸】2017.6.6
 本件に関連して無効審判が提起され(無効2015-800211号),それは不成立審決でした。
 これに対して審決取消訴訟が提起されましたが(知財高裁平成28(行ケ)10229),棄却で終わっております。

【さらに追伸】2017.9.25
 控訴審の判決が出ました。知財高裁平成29(ネ)1004(平成29年9月11日判決)です。 第三部の鶴岡部長の合議体です。
 ただし,一審と大幅に変わることのない判断でしたたので(被告だった控訴人の控訴を棄却。),別途ご紹介するまでもないと思います。

 ご興味のある方は,判決を見て下さい。