2017年8月10日木曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)14868  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成29年7月12日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東  海  林              保 
裁判官  廣 瀬              孝
裁判官  勝      又      来  未  子  


「(1)「送信したとき」の意義について
ア  構成要件1Dは,「上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段と,」というものであり,「第二のメッセージを送信したとき」に,第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとされている。
 また,構成要件1Fは,第一の登録者と第三の登録者の関連付けをする場合について,「第三の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第三の端末から受信して第一の端末に送信したとき,上記記憶手段に記憶されている上記第一の登録者の識別情報と上記第三の登録者の識別情報とを関連付ける」ものとしており,構成要件1Dと同様に,サーバが「第二のメッセージを・・・送信したとき」に,第一の登録者の識別情報と第三の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとされている。
 ここで,第一の登録者を会員A,第二の登録者又は第三の登録者を会員Bとすると,本件発明1においては,サーバが,会員Aが会員Bと人間関係を結ぶことを希望する旨のメッセージである「第一のメッセージ」を受信して同メッセージを会員Bの端末に送信し,上記サーバが,会員Bがこれに合意する旨のメッセージである「第二のメッセージ」を受信して,同メッセージを会員Aに「送信したとき」に,会員Aの識別情報と会員Bの識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶する,ということができる。
イ  ところで,広辞苑第六版(甲9)によれば,「とき」とは,「(連体修飾語をうけ,接続助詞的に)次に述べることの条件を示すのに使う。…の場合。」を意味するものであり,また,大辞林第三版(甲10)においても「(連体修飾句を受けて)仮定的・一般的にある状況を表す。(...する)場合。」とされており,用字用語新表記辞典(乙22)では「『とき』は条件・原因・理由・その他,『場合』よりも小さい条件のときに用いることがある。」,最新法令用語の基礎知識改訂版(乙23)では「『時』は時点や時刻が特に強調される場合に使われるのに対して,『とき』は一般的な仮定的条件を表す場合に使われる。」と記載されている。これらからすれば,構成要件1D及び1Fにおける「送信したとき」の「とき」は,条件を示すものであると解するのが相当である。
ウ  この点に関して原告は,「送信したとき」の「とき」は「同じころ」という意義を有するものであり,「ある程度の幅をもった時間」を意味すると主張する。
 たしかに,広辞苑第六版及び大辞林第三版には,上記イで指摘した意義の他に,原告が主張するような意義も掲載されている(甲9,10)。しかし,広辞苑第六版(甲9)には「おり。ころ。」を意味する「とき」の用例として「ときが解決してくれる」「しあわせなときを過ごす」といったものが掲載されており,「送信したとき」のような具体的な行為を示す連体修飾語を受けた用例は記載されていない。また,大辞林第三版(甲10)をみると「ある幅をもって考えられた時間」を意味する「とき」の用例として,「将軍綱吉のとき」「ときの首相」「ときは春」などというものが掲載されており,やはり「送信したとき」のような具体的な行為を示す連体修飾語を受けた用例は記載されていない。
 そして,抽象的で,空間的及び時間的に広い概念を表現した上記各用例と比べると,「送信したとき」という表現は,その指し示す行為が相当程度に具体的かつ直接的であることから,およそ用いられる場面が異なるというべきである。  また,原告が指摘する審決(甲11)には,「とき」という用語について「ある程度の幅を持った時間の概念を意味する」旨の判断がされているが,当該審決は,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに,前記転送手段によって前記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定する」という記載における「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに」という文言について,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されると『同時』又は『間をおかずに』」という意味ではなく,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始され」た後,「前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定する」までの間に他の処理がされるとしても,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに」に当たると判断したものであって,「前記転送手段によって前記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定」した後に「前記9個の可変表示部の可変表示が開始され」たとしても,上記文言を充足するなどと判断したものではないから,本件における「送信したとき」の解釈において参酌することは相当ではない。
 そうすると,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」における「とき」が「ある程度の幅をもった時間」を意味するものということはできない。
 また,本件明細書等1をみても,「送信したとき」の「とき」について,「条件」ではなく「時間」を意味することをうかがわせる記載はない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ  以上から,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」とは,「送信したことを条件として」という意義であると認めることが相当である。
(2) 被告サーバの構成
ア  次に,証拠(乙25ないし27)によれば,被告サーバにおいて,会員Aと会員Bの人間関係を記憶するプロセスとしては,①被告サーバが,会員Aの会員Bに対するマイミク追加リクエストを受信する,②被告サーバが,会員Aの会員Bに対するマイミク追加リクエストを会員Bに通知する,③会員Bが被告サービスの画面上の「マイミクに追加する」をクリックして会員Aからの「マイミク追加リクエスト」を承認する,④被告サーバが会員Aと会員Bを「マイミク」として記録する,⑤被告サーバが,会員Aに対し,「マイミク追加リクエスト」が承認されたことを通知する,というものであることが認められる。ここで,被告サービスにおいて「マイミクになる」ことは,本件発明1において「人間関係を結ぶ」ことに該当し,被告サービスにおける「マイミク追加リクエスト」を承認した旨の通知は,本件発明1における「第二のメッセージ」に該当し得る。
イ  また,被告のヴァンテージスタジオmixiシステム部部長甲作成の陳述書及び同陳述書添付のソースコードの記述(乙25)によれば,被告サービスのプログラムにおいては,被告サーバが有する記憶手段により,会員Aと会員Bがマイミクとして記憶されたことを条件として,会員Aに対し,「マイミク追加リクエストの承認」を通知するという処理がされていることが認められる。
 そして,上記の処理においては,被告サーバにおいて,仮に会員Aと会員Bがマイミクとして記憶された後に,何らかのエラーが生じて,会員Aに対し「マイミク追加リクエスト」が承認された旨の通知がされなかったとしても,被告サーバにおいては,会員Aと会員Bがマイミクであると記憶されるということになる。
(3) 構成要件充足性
 以上からすると,被告サーバは,第二のメッセージを受信したことを条件として「マイミク」であることを記憶し,「マイミク」である旨の記憶をしたことを条件として「第二のメッセージ」を送信するという構成を有しているものであって,第二のメッセージを送信したことを条件として「マイミク」であることを記憶するという構成を有するものではないと認められる。
 したがって,被告サーバは,「第二のメッセージを送信したとき」に「上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段」を有しているということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,構成要件1D及び1Fを充足しない。
 よって,被告サーバは,本件発明1の技術的範囲に属しない。 」

【コメント】
 ソフトの特許の侵害訴訟です。最近の私の中での流行りのクレーム解釈が問題になってましたので取り上げました。
 
 クレームからです(特許第3987097号)。 
1A  登録者の端末と通信ネットワークを介して接続し,
1B  登録者ごとに,当該登録者の識別情報と,当該登録者と人間関係を結んでいる他の登録者の識別情報とを関連付けて記憶している記憶手段と,
    を備えたサーバであって,
1C  第一の登録者が第二の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを第一の登録者の端末(以下,「第一の端末」という)から受信して第二の登録者の端末(以下,「第二の端末」という)に送信すると共に,第二の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第二の端末から受信して第一の端末に送信する手段と,
1D  上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段と,
1E  上記第二の登録者の識別情報を含む検索キーワードを上記第一の端末から受信し,この第二の登録者の識別情報と関連付けて記憶されている第二の登録者と人間関係を結んでいる登録者(以下,「第三の登録者」という)の識別情報を上記記憶手段から検索し,検索した第三の登録者の識別情報を第一の端末に送信する検索手段と,
1F  上記第一の登録者が上記第三の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを上記第一の端末から受信して上記第三の登録者の端末(以下,「第三の端末」という)に送信すると共に,第三の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第三の端末から受信して第一の端末に送信したとき,上記記憶手段に記憶されている上記第一の登録者の識別情報と上記第三の登録者の識別情報とを関連付ける手段と,
1G  を有してなることを特徴とする人脈関係登録サーバ。

 どういうものかというと,判旨に説明があります。
本件発明1は,より広範で深い人間関係を結ぶための,人脈関係登録システム,人脈関係登録方法とサーバ,人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体に関するものであり,より広範で深い人間関係を結ぶことを積極的にサポートするために,上記記録媒体を提供することを目的とするものであって,記録手段を備えたサーバに,人間関係を結んだ登録者の識別情報を関連付けて記憶することで,ある登録者と他の登録者と共通して関連付けられているさらに他の登録者を検索することができるようにするという発明である,と認められる。
 要するに,友達(B)の友達(C)は,皆友達だ~(この3人目の登場人物Cを検索して人間関係を増やすというSNSでありがちなパターンの技術です。),てなわけです。

 で,問題となったのは,構成要件1Cです。
 この「上記第二のメッセージを送信したとき」の解釈です。

 というのは,被告のミクシィのサービスは,「友達の承認」的な通知が一番最後,つまり,まず友達の承認の処理の方が先で,その後,その通知が使っている人に行くようなものなのですね。
 なので,原告としては, 「上記第二のメッセージを送信したとき」は,幅のある話なのだ!広く解していいのだ!と主張したわけです。時間的先後だとか条件が問題になってしまうと,クレームと被告のサービスは違うとなってしまいがちだからです。
 他方,被告としては,「とき」って何だ?それは,法律用語なんだから,条件を表すのではないかと主張したわけです。
 ちなみに,私が持っているこの辺のことが書いている本を参照します。
 まず,「新 法令用語の常識」 吉田利宏 日本評論社 です。
 「「場合」も「とき」も,どちらも仮定的条件を示す言葉です。・・・仮定的条件が二つ重なる場合 には,大きい方の条件には「場合」を,小さい方の条件には「とき」を使うことになっています。」

 だそうです。

 次に,「公用文 用字用語の要点」 廣瀬菊雄 新日本法規 です。
 「ほかの言葉の後について,主として「場合」という語と同じような意味を表す場合に用いられる。

 です。

 つまりは,「とき」は,条件なわけです。被告に分がありそうです。
 本件発明はソフトの発明ですから,恐らく,フローチャートをクレームで言葉にしたのでしょうね。
 要するに,
 [判断 ]第二メッセージ送信
    ↓ Yes
 [処理] 第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶する
 というアルゴリズムをクレームにしたわけです。 

 とすると,被告のサービスとは,結構違うわけです。
 勿論,それでもクレームだけ,

 例 「上記第二のメッセージを送信したとき又は送信した時
 なーんてやると,文言上はクレーム内に入るかもしれません。
 でもそうすると,本件特許の技術的な思想からは外れていくような気がします。
 ソフトの特許の場合,ハードとの協働が無ければそもそも特許を取れませんので,上記の例のような小手先だけの誤魔化しではあまり意味がないような気が致します。
 つまりは,今回のミクシィのサービスのようなものも明細書に記載出来るほど,想像力豊かに創作出来たかどうかということです。
 
 そして,そうでないならば,棄却というのも致し方無いことです。