2018年2月20日火曜日

侵害訴訟 商標 平成29(ワ)123  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 差止請求事件
裁判年月日
 平成30年2月14日
裁判所名
 東京地方裁判所第29部    
裁判長裁判官  嶋      末      和      秀     
 裁判官          伊      藤      清      隆      
裁判官        西      山      芳      樹

「2  争点1(被告各商品は本件指定役務に類似するか)について
⑴  役務と商品とが類似のものであるかどうかは,取引の実情として,商品の製造・販売と役務の提供とが,通常,同一事業者によって行われている等の事情により,商品又は役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,需要者において,当該商品が当該役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁,最高裁昭和36年(オ)第1388号同38年10月4日第二小法廷判決・民集17巻9号1155頁,最高裁昭和37年(オ)第955号同39年6月16日第三小法廷判決・民集18巻5号774頁参照)。  ・・・・
 ⑵  そこで,まず,本件指定役務と被告商品1(緑みかんシロップ)の類否について検討すると,本件指定役務は「加工食料品」という特定された取扱商品についての小売等役務であるのに対して,前記前提事実⑶,⑷のとおり,被告商品1は,「シロップ」であって,第32類の「清涼飲料」に属する商品であると認められる(被告商品1が第29類の「加工野菜及び加工果実」に含まれる旨の原告の主張は採用することができない。)ところ,「清涼飲料」と「加工食料品」は,いずれも一般消費者の飲食の用に供される商品であるとはいえ,取引の実情として,「清涼飲料」の製造・販売と「加工食料品」を対象とする小売等役務の提供とが同一事業者によって行われているのが通常であると認めるに足る証拠はない
 そうすると,被告商品1に本件商標と同一又は類似の商標を使用する場合に,需要者において,被告商品1が「加工食料品」を対象とする小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められる関係にはなく,被告商品1が本件指定役務に類似するとはいえないというべきである。 
  ⑶ア  他方で,前記前提事実⑶,⑷のとおり,被告商品2(梅ジャム)及び3(ブルーベリージャム)については,いずれも「ジャム」であって,第29類の「加工野菜及び加工果実」に属する商品であり,本件指定役務において小売等役務の対象とされている「加工食料品」と関連する商品であると認められる。
  イ  しかしながら,一般に,ジャム等の加工食料品の取引において,製造者は小売業者又は卸売業者に商品を販売し,小売業者等によって一般消費者に商品が販売される業態は見られるところであり,本件の証拠上も,被告は,その製造に係る梅ジャム等の商品をパルシステム,生協,ケンコーコム等に販売し,これらの事業者によって一般消費者に商品が販売されていると認められるほか(上記1⑵),原告も,商品を自ら一般消費者に販売する以外に,らでぃっしゅぼーや,生協,デパートに販売し,これらの事業者によって一般消費者に商品が販売されていたと認められる(上記1⑴)。
 そうすると,他方で,ジャム等を製造して直接一般消費者に販売する事業者が存在するとして原告が提出する証拠(甲40の1・2)の内容を踏まえたとしても,ジャム等の加工食料品の取引の実情として,製造・販売と小売等役務の提供が同一事業者によって行われているのが通常であるとまでは認めることができないというべきである。
ウ  また,商品又は役務の類否を検討するに当たっては,実際の取引態様を前提にすべきところ,被告標章2を包装に付した被告商品2及び3の取引態様は,上記1⑵イで認定したとおり,被告と継続的な取引関係があるケンコーコムにおいて,被告から商品を購入して自社が運営する通販サイトを通じて一般消費者に販売するというものであり,その通販サイトには,ケンコーコムの名称及びロゴが表示されていると共に,商品ごとに製造・販売者が表示されている。
 そうすると,ケンコーコムにおいて,被告商品2及び3が小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品であると誤認するおそれがあるとは認め難く,また,通販サイトで被告商品2及び3を購入する一般消費者においても,製造・販売者とインターネット販売業者を区別して認識すると考えられるから,小売等役務を提供するインターネット販売業者の製造又は販売に係る商品であると誤認するおそれがあるとは認め難い。
 なお,原告は,将来,原告がケンコーコムと取引を開始した場合には,同社において誤認混同のおそれが生じる旨主張するが,上記1⑴で認定した原告の取引態様を前提とする限り,同社において小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認するおそれを生じるとは認め難い。
エ  以上のとおり,本件の証拠上,ジャム等の加工食料品の取引の実情として,製造・販売と小売等役務の提供が同一事業者によって行われているのが通常であるとまでは認めることができないというべきであり,被告商品2及び3の実際の取引態様を踏まえて検討しても,被告商品2及び3に本件商標と同一又は類似の商標を使用する場合に,需要者において,被告商品2及び3が本件小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にはないというべきである。
 したがって,被告商品2及び3が本件指定役務に類似するとはいえないというべきである。 
⑷  これに対し,原告は,類似商品・役務審査基準において,被告商品2及び3はいずれも「加工野菜及び加工果実」(32F04)に分類され,本件指定役務(35K03)に類似すると推定されていることから,被告商品2及び3は本件指定役務と類似する旨主張する。
 しかしながら,類似商品・役務審査基準は,商標登録出願審査事務の便宜と統一のために定められたものであり,裁判所の判断を拘束するものではないから,類似商品・役務審査基準において類似すると推定されているというだけで,本件指定役務と被告商品2及び3が類似するということはできない。
 とりわけ,商標権侵害訴訟における商品又は役務の類否の判断の際には,需要者において,商品の製造・販売者と役務の提供者の出所が誤認混同されるおそれがあるかを実際の取引態様を踏まえて具体的に検討する必要があるというべきところ,本件の証拠上,被告商品2及び3についてそのようなおそれがあると認められないことは上記で認定,説示したとおりである。
 したがって,原告の主張は採用することができない。」

【コメント】 
 商標権侵害訴訟の事件であり,法的に何か画期的な論点があったわけではありません。
でもこの事件を紹介したのには理由があります。非常に居心地の悪い判決だという気がするからです。

 商標権は以下のとおりです。
 登録番号  第5848068号 
   登録商標  ジョイファーム(標準文字)  
   指定役務 35類「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する
便益の提供(本件指定役務) 」

 所謂小売役務商標です。

 対する被告の方です。

 使用商標等は以下のとおりらしいです。
 
 3つの使用態様があります。

  商標は,「ジョイファーム小田原」ですね。
 そして,一番上が,被告商品1(緑みかんシロップ)で,中が被告商品2(梅ジャム)で,一番下が被告商品3(ブルーベリージャム) です。

 ということで,東京地裁の29部はこれで役務・商品が似ていないとしました。
 でも本当でしょうか?

 この判決で引用した判例は,所謂橘正宗事件です。 
 この判例では確かに,判示に似た,「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは」とあります。
 つまり,一見,事業者の同一性を重視しているようにも見えます。

 でも本当でしょうか?
  この判例にも「等」がありますよね。絶対必ず「事業者の同一性」が一番か?というとそうではないと思います。
 だって,最終的には,事業主側の事情ではなく,消費者側が 「出所について誤認混同を生ずる」かどうかが一番大事ですもの。

 本件で,普通に考えれば,商標は同一と言ってよいでしょう。 
 そして,シロップは大目に見るとしても,梅ジャムとブルーベリージャムに今回のこの「ジョイファーム」商標を使うと,そうか,原告がこういう事業をやり始めたか,やっているのかと誤認混同を起こすのではないかと思うのですね。

 実に腑に落ちません。形式的に判断し,何だかそれっぽい理由で,非類似と判断しておりますけど,非常に不可解なものを感じます。
 判決は,「需要者において,商品の製造・販売者と役務の提供者の出所が誤認混同されるおそれがあるかを実際の取引態様を踏まえて具体的に検討する必要があるというべきところ」と判示していますが,そういう検討をしていないのは,お前だろと言いたくなります。
 
 その理由の一つは,本件で,原告は本人訴訟なのですね。なので,裁判所が原告を舐めたからではないでしょうか。だから結論ありきで判断したのではないかと推測されます。
 ですので,もうあまり日にちはありませんが,控訴した方がいいでしょうね。こんな分かったような分からない判決の確定なんてとても許せることではありませんから。