2018年3月19日月曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ワ)31774等  東京地裁 反訴請求一部認容

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年3月2日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部  
     裁判長裁判官               佐      藤      達      文  
    裁判官       廣     瀬              孝  
     裁判官            勝      又      来  未  子 
 
本訴について
「 ・・・
以上によれば,本件発明をしたとの原告代表者の供述は採用することができず,他に原告代表者が本件発明の発明者であることを裏付けるに足りる客観的証拠も見当たらない。そして,被告の従業員らが本件発明をし,福島工場においてこれを実施していたとのH及びEの証言自体に不自然な点はなく,これに沿う客観的証拠も存在すること,原告代表者が被告の福島工場以外の場所において本件発明を知得したことをうかがわせる事情もないことなどを総合考慮すれば,本件特許の出願前の時点で,被告の福島工場において既に本件発明が実施されており,原告代表者はこれを知得した上で本件特許を出願したものというべきである。
  したがって,本件においては,原告代表者が本件発明の発明者であることは認めるに足りないのであって,原告が本件発明の発明者から特許を受ける権利を承継したものということはできない。  ・・・

 以上のとおり,原告が本件発明の発明者から特許を受ける権利を承継したものということはできないのであるから,本件特許は,その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものとして,特許法123条1項6号所定の無効理由を有する。
  したがって,原告は被告に対して本件特許に基づく権利行使をすることができないから(特許法104条の3第1項),その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がない。」

反訴について
「(1) 本訴提起の違法性
  訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁参照)。
  本件においてこれをみるに,原告の本訴請求は理由がないところ,前記2(5)に説示したとおり,原告代表者は福島工場において本件発明を知得した上,本件特許を出願したものといわざるを得ないのであって,原告による本件特許の出願は冒認出願であったというべきである。
 そして,本件特許の出願をD弁理士に依頼したのは原告代表者自身であり,被告の福島工場を訪れたのも原告代表者自身であって,本件特許の出願については原告代表者が主体的に関わったものと認められることなどによれば,原告代表者が記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをして本件特許出願に及んだということもできない。
  加えて,原告が本訴提起前に被告から本件特許の出願が冒認出願であるとの指摘を受けながらあえて本訴提起に及んだと認められることは,前記2(2)シ(イ)及び(ウ)記載のとおりである。 
  そうすると,本訴請求において原告の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることはもちろん,原告が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したというべきであるから,本訴の提起は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められるといわざるを得ない。 
  したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告による本訴の提起は被告に対する違法な行為というべきである。 」

【コメント】
 特許権侵害訴訟が本訴で,不法行為に基づく損害賠償訴訟が反訴です。
 特許権は,特許第4018844号で特許権者が勿論原告,そして,発明者として記載があるのは原告代表者であることがポイントです。
 
 クレームは今回省略です。ポイントがそこではありませんから。
 ポイントは無効の抗弁で,なんと冒認が認められたのです。 それ故特許権侵害訴訟は,棄却となったわけです。

 冒認が認められたのは,ここでも紹介したアップルを訴えた事件がありましたが,あれ以来というか,非常に珍しいわけです。普通はそんなの分かるわけありませんから。
 
 ところが,今回は,特許権者が被告の取引先で,被告からの技術的事項の開示があったりしたわけです。ですので,その際に原告の方が冒認したのだろうと認定されたわけですね。 

 で,それにもかかわらず,権利行使してしまった。さらに,警告状のやり取りでそのことを指摘されたのにもかかわらず,訴訟まで提起してしまった~とこういう具合です。
 
 廉潔性を何よりも尊ぶ裁判所で,こんなの認められるわけがありません。他方,不法行為の賠償金は,550万円(弁護士費用が50万円)と結構な額です。
 
 こういう際どい戦術って,基本,取引が取りやめになった意趣返しでやることが多いと思うのですけど, やはり今回もそのとおりです。他人を恨むと碌なことにはなりません。
 気をつけなはれや~という所でしょうか。