事件番号
事件名
不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日
平成30年3月26日
裁判所名
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 関 根 澄 子
裁判官 片 瀬 亮
「 2 争点1(本件情報の営業秘密該当性)について
(1) 秘密管理性
ア 前記1認定のとおり,①被控訴人は,平成22年7月1日に就業規則を制定し,従業員に秘密保持義務を課していたこと(前記1(4)),②被控訴人は,前身の丸栄電機時代の平成21年3月13日に情報セキュリティ管理の国際規格であるISO27001の要求事項に適合していると認証され,適合性審査を毎年更新しており,ISO規格の内部監査員養成セミナーを受けたシステム管理責任者らにより,従業員に対し,一般情報セキュリティ教育を行っていたこと(前記1(3)),③被控訴人の資産台帳上,機器制御ソフトウェア,部品リストデータ,基板データ,回路図データは,公開レベル「秘密」と区分されていること(前記1(5)),④被控訴人の社内ファイルサーバ内のデータのうち,アクセスを制限するものは,「会社資料S」,「仕様書原本S」,「開発技術S」,「栄幸電子S」,「営業部S」の5つのフォルダに分けられ,それぞれアクセスできる従業員を限定した上で,個々の従業員が特定の端末から,ユーザー名とパスワードを入力しなければアクセスできないように管理されていたこと(前記1(5)),⑤本件情報のうち,原告部品リストデータは「栄幸電子S」フォルダに保管され,原告PCソースコードや原告マイコンソースコード,原告回路図データ,原告基板データは,「開発技術S」に保管されていたこと(前記1(5))が認められる。
これらの事実によれば,本件情報については,被控訴人の従業員において被控訴人の秘密情報であると認識していたものであるとともに,秘密として管理していることを十分に認識し得る措置が講じられていたと認められるから,秘密管理性が認められる。
(1) 秘密管理性
ア 前記1認定のとおり,①被控訴人は,平成22年7月1日に就業規則を制定し,従業員に秘密保持義務を課していたこと(前記1(4)),②被控訴人は,前身の丸栄電機時代の平成21年3月13日に情報セキュリティ管理の国際規格であるISO27001の要求事項に適合していると認証され,適合性審査を毎年更新しており,ISO規格の内部監査員養成セミナーを受けたシステム管理責任者らにより,従業員に対し,一般情報セキュリティ教育を行っていたこと(前記1(3)),③被控訴人の資産台帳上,機器制御ソフトウェア,部品リストデータ,基板データ,回路図データは,公開レベル「秘密」と区分されていること(前記1(5)),④被控訴人の社内ファイルサーバ内のデータのうち,アクセスを制限するものは,「会社資料S」,「仕様書原本S」,「開発技術S」,「栄幸電子S」,「営業部S」の5つのフォルダに分けられ,それぞれアクセスできる従業員を限定した上で,個々の従業員が特定の端末から,ユーザー名とパスワードを入力しなければアクセスできないように管理されていたこと(前記1(5)),⑤本件情報のうち,原告部品リストデータは「栄幸電子S」フォルダに保管され,原告PCソースコードや原告マイコンソースコード,原告回路図データ,原告基板データは,「開発技術S」に保管されていたこと(前記1(5))が認められる。
これらの事実によれば,本件情報については,被控訴人の従業員において被控訴人の秘密情報であると認識していたものであるとともに,秘密として管理していることを十分に認識し得る措置が講じられていたと認められるから,秘密管理性が認められる。
・・・
(2) 非公知性
本件情報は,いずれも原告製品1ないし4の開発のために独自に作成されたデータであり,被控訴人の社内で管理された非公知情報であると認められる。
控訴人は,原告製品1ないし4は販売から既に3年以上経っており,被控訴人により独占的に製造・販売されている製品ではないから,本件情報が非公知情報であるとはいえないと主張する。しかし,原告製品1ないし4が被控訴人により独占的に製造・販売されている製品ではないことをもって,本件情報の非公知性が否定されるものではなく,上記主張は採用できない。
(3) 有用性
本件情報が,いずれも原告製品1ないし4を製作するために不可欠な情報であることに争いはなく,有用性が認められる。
(4) 小括
以上によれば,本件情報は,不競法2条6項所定の営業秘密に該当する。 」
本件情報は,いずれも原告製品1ないし4の開発のために独自に作成されたデータであり,被控訴人の社内で管理された非公知情報であると認められる。
控訴人は,原告製品1ないし4は販売から既に3年以上経っており,被控訴人により独占的に製造・販売されている製品ではないから,本件情報が非公知情報であるとはいえないと主張する。しかし,原告製品1ないし4が被控訴人により独占的に製造・販売されている製品ではないことをもって,本件情報の非公知性が否定されるものではなく,上記主張は採用できない。
(3) 有用性
本件情報が,いずれも原告製品1ないし4を製作するために不可欠な情報であることに争いはなく,有用性が認められる。
(4) 小括
以上によれば,本件情報は,不競法2条6項所定の営業秘密に該当する。 」
「 3 争点2(不競法2条1項8号,10号所定の不正競争行為の成否)について
(1) PCソースコードについて
ア Dによる原告PCソースコードの不正開示について
(1) PCソースコードについて
ア Dによる原告PCソースコードの不正開示について
(ア) 前記1認定のとおり,被告製品1ないし4のPCソースコードは,いずれもDが,平成25年12月ないし平成26年1月頃に,A,B及びCから作成の指示を受け,その頃作成したものである(前記1(8))。
(イ) 原告製品1のPCソースコード(甲19),原告製品2のPCソースコード(甲21),原告製品3及び4のPCソースコード(甲23)を,それぞれ,被控訴人が被告製品1のPCソースコードの一部として提出するもの(甲20),被告製品2のPCソースコードの一部として提出するもの(甲22),被告製品3及び4のPCソースコードの一部として提出するもの(甲24)と対比すると,一致する表現が多数認められる。
そして,被告製品1ないし4のPCソースコードには,以下のとおり,原告製品1ないし4のPCソースコードに依拠して作成されたことをうかがわせる記載がある。
(イ) 原告製品1のPCソースコード(甲19),原告製品2のPCソースコード(甲21),原告製品3及び4のPCソースコード(甲23)を,それぞれ,被控訴人が被告製品1のPCソースコードの一部として提出するもの(甲20),被告製品2のPCソースコードの一部として提出するもの(甲22),被告製品3及び4のPCソースコードの一部として提出するもの(甲24)と対比すると,一致する表現が多数認められる。
そして,被告製品1ないし4のPCソースコードには,以下のとおり,原告製品1ないし4のPCソースコードに依拠して作成されたことをうかがわせる記載がある。
・・・・
以上によれば,Dは,被告製品1ないし4のPCソースコードを作成するに当たって,原告製品1ないし4のPCソースコードに依拠したことが推認される。
(ウ) 原審証人Dは,平成25年12月ないし平成26年1月頃,被控訴人のパソコンから原告PCソースコードをUSBメモリにコピーして持ち出し,これを用いて被告PCソースコードを作成したと供述する。かかる供述は,Dが,平成26年2月14日までは被控訴人の業務委託社員で,原告PCソースコードについてアクセス権限を有しており,平成25年12月ないし平成26年1月当時,本件情報を入手することが可能であったこと,Dが,被告PCソースコードを作成するに当たって,原告PCソースコードに依拠したことと整合し,信用することができる。
そして,前記1の認定事実によれば,Dは,平成25年12月ないし平成26年1月当時,被控訴人の業務委託社員であり(前記1(2)),被控訴人の就業規則により,被控訴人の営業秘密を保持する義務を負っていた(前記1(4))ことが認められる。
そうすると,Dは,被控訴人において営業秘密として管理されている本件情報について秘密保持義務を負っていたにもかかわらず,原告PCソースコードを持ち出し,控訴人に開示したのであるから,秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を不正に開示したものというべきである。
(ウ) 原審証人Dは,平成25年12月ないし平成26年1月頃,被控訴人のパソコンから原告PCソースコードをUSBメモリにコピーして持ち出し,これを用いて被告PCソースコードを作成したと供述する。かかる供述は,Dが,平成26年2月14日までは被控訴人の業務委託社員で,原告PCソースコードについてアクセス権限を有しており,平成25年12月ないし平成26年1月当時,本件情報を入手することが可能であったこと,Dが,被告PCソースコードを作成するに当たって,原告PCソースコードに依拠したことと整合し,信用することができる。
そして,前記1の認定事実によれば,Dは,平成25年12月ないし平成26年1月当時,被控訴人の業務委託社員であり(前記1(2)),被控訴人の就業規則により,被控訴人の営業秘密を保持する義務を負っていた(前記1(4))ことが認められる。
そうすると,Dは,被控訴人において営業秘密として管理されている本件情報について秘密保持義務を負っていたにもかかわらず,原告PCソースコードを持ち出し,控訴人に開示したのであるから,秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を不正に開示したものというべきである。
イ 控訴人の故意又は重過失について
前記1の認定事実によれば,Dは,A,B及びCから,平成25年12月ないし平成26年1月頃,原告製品と同等の被告製品に使用するための被告PCソフトを作成するよう指示を受け,その作成に及んだこと(前記1(8)),その際にAらは,Dに対し,基本ソフトをWindowsXPではなくWindows7で動作するようにすること及びディスプレイ画面のイメージを原告製品とは異なるようにすることを指示したこと(前記1(8)),原告PCソフトは,いずれも基本ソフトがWindowsXPであり,Dは,そのソースコードを改変してWindows7に対応するものとしたこと(前記1(8)),Dは,当時,被控訴人の業務委託社員で,被控訴人のソフトウェア開発の責任者であった者であり,原告PCソースコードへのアクセス権限があったこと(前記1(6))が認められる。
これらの事実によれば,Aらは,被控訴人のソフトウェア開発の責任者で,原告PCソフトを熟知しており,現に被控訴人に勤務し,原告PCソースコードへのアクセス権限を有するDに対し,原告製品と同等の被告製品に使用するための被告PCソフトを作成するよう指示し,その際に,基本ソフトを原告製品のWindowsXPではなくWindows7で動作するように指示したり,ディスプレイ画面を変更したりするように指示しているのであるから,明示的にDに対し,原告PCソースコードを持ち出すように指示することまでしたとは認められないとしても,Dが原告PCソースコードを持ち出し,その基本ソフトやディスプレイ画面を変更して,被告PCソフトを作成することを,少なくとも容易に認識し得たと認められる。よって,控訴人において,Dが被控訴人の営業秘密である原告PCソースコードを不正に開示していることを認識しなかったことについては,重大な過失があるというべきである。
ウ 小括
以上によれば,控訴人が,Dが,被控訴人の営業秘密である原告PCソースコードを,秘密保持義務に違反して不正に開示していることにつき,重大な過失により認識しないで営業秘密を取得した上,当該営業秘密を用いて被告PCソフトを作成した事実を認定することができる。・・・」
前記1の認定事実によれば,Dは,A,B及びCから,平成25年12月ないし平成26年1月頃,原告製品と同等の被告製品に使用するための被告PCソフトを作成するよう指示を受け,その作成に及んだこと(前記1(8)),その際にAらは,Dに対し,基本ソフトをWindowsXPではなくWindows7で動作するようにすること及びディスプレイ画面のイメージを原告製品とは異なるようにすることを指示したこと(前記1(8)),原告PCソフトは,いずれも基本ソフトがWindowsXPであり,Dは,そのソースコードを改変してWindows7に対応するものとしたこと(前記1(8)),Dは,当時,被控訴人の業務委託社員で,被控訴人のソフトウェア開発の責任者であった者であり,原告PCソースコードへのアクセス権限があったこと(前記1(6))が認められる。
これらの事実によれば,Aらは,被控訴人のソフトウェア開発の責任者で,原告PCソフトを熟知しており,現に被控訴人に勤務し,原告PCソースコードへのアクセス権限を有するDに対し,原告製品と同等の被告製品に使用するための被告PCソフトを作成するよう指示し,その際に,基本ソフトを原告製品のWindowsXPではなくWindows7で動作するように指示したり,ディスプレイ画面を変更したりするように指示しているのであるから,明示的にDに対し,原告PCソースコードを持ち出すように指示することまでしたとは認められないとしても,Dが原告PCソースコードを持ち出し,その基本ソフトやディスプレイ画面を変更して,被告PCソフトを作成することを,少なくとも容易に認識し得たと認められる。よって,控訴人において,Dが被控訴人の営業秘密である原告PCソースコードを不正に開示していることを認識しなかったことについては,重大な過失があるというべきである。
ウ 小括
以上によれば,控訴人が,Dが,被控訴人の営業秘密である原告PCソースコードを,秘密保持義務に違反して不正に開示していることにつき,重大な過失により認識しないで営業秘密を取得した上,当該営業秘密を用いて被告PCソフトを作成した事実を認定することができる。・・・」
【コメント】
ここで,不正競争関係の控訴審判決を紹介するのはこれが初めてになると思います。
ポイントは一つ。ソースコードが営業秘密として認められた事例の一つ,ということです。
ソースコードが知財高裁で営業秘密として認められたのは,この判決が初めてではありません。ここで少し紹介した,一昨年の知財高裁の判決があります。
さて,この判決でいう本件情報とは,結構たくさんあって,PCソースコード,マイコンソースコード,回路図データ ,部品リストデータ,基板データ等です。
そして,上記のとおり,これらのいずれも営業秘密であると認められました。
ただし,このうち不正競争行為まで認められたのは,PCソースコードのみのようです。他のものについては,立証不足ということで認められませんでした。
今回の事例は,元従業員による漏洩行為(自分の会社を設立し,元居た会社と競合するパターンですね。)なのですけど,捜査官が貼り付いたような場合じゃないとなかなかいちいちの漏洩経路を探るなんてことは難しいと思います。
こういう場合は,刑事事件化した方が早いとは思うのですが,それが世の中全体にとって良いことかどうかは難しい所です。
なお,この判決が原判決を変更したのは損害賠償額を減額したのが主な理由だと思います。