2018年5月16日水曜日

不正競争  平成28(ワ)6074  大阪地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年4月17日
裁判所名
 大阪地方裁判所第21民事部  
裁判官          野    上    誠    一  
裁判長裁判官森崎英二及び裁判官大川潤子は転補により署名押印すること
ができない。
裁判官        野    上    誠    一 

「(3) 原告標章と被告標章の類似性について 
ア  ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。 
 イ  これを本件についてみると,被告標章1及び4である「堂島プレミアムロール」は,「堂島」,「プレミアム」,「ロール」の3語で構成されているが,このうち,「プレミアム」との語は,優れたあるいは高品質なものを意味する語であり,商品が優れたり,高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い(乙C7の1,2,乙C8の1参照)ことが一般的に認められるから,「プレミアム」の部分は,これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され,商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方,「堂島」は地名,「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが,「プレミアム」が上記のとおり,品質を示す意味しか有しないことからすると,「プレミアム」を挟んで分離されているものの,被告標章1及び4からは,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし,また称呼も同様に類似しているといえる。
 そうすると,被告標章1及び4と原告標章とは,被告標章4のみならず字体に特徴のある被告標章1を含め,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づ く印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。
ウ  また被告標章2については,「(株)堂島プレミアム」と「プレミアムロール」との語を2段重ねで一体的に表示したものであるが,「(株)」というのは会社の種類を示す株式会社の略語にすぎないから,これ自体に出所識別機能は認めら れない。そこで,これを除くと,被告標章2は,「堂島プレミアム」と「プレミアムロール」が2段重ねで一体化している表示であるが,上段,下段で重複して使用されている「プレミアム」という語は,上記で判示したとおり,独自の出所識別機能を有しない語であるし,また取引の現場では長い名称の商品名は略して称呼され,観念されることが多いと考えられるから,繰り返される「プレミアム」の部分は一単語に省略され,さらにそれ自体の出所識別機能がないことも合わさって,「堂島 プレミアム,プレミアムロール」から,「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられると考えられる。したがって,被告標章2からは被告標章1及び4についてみたのと同様,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」という観念が生じるということができ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえる。 
 また,称呼の点も,同様に「ドウジマプレミアムロール」との称呼が生じるといえるから,原告標章の「ドウジマロール」との称呼と類似しているといえる。
 そうすると,被告標章2と原告標章とは,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。 
エ  さらに被告標章3は,被告標章2の上段部分の「(株)堂島プレミアム」部分を,下段の「プレミアムロール」より小さな文字で表示しているものであるが,上下段の一体性を損なうほど,文字の大きさに差はないから,被告標章2と同様の理由から,取引者,需要者は被告標章3と原告標章を類似のものと受け取るおそれがあるということができる。 
オ  被告標章5は,被告標章2及び3の「(株)」の部分を「株式会社」,「(株)」又は同部分に相当する部分がないものとしている標章であるが(ただし,2段重ねという限定はない。),「(株)」については既に説示したとおりであり,「株式会社」についても,単なる会社の種類を表示する語にすぎないから,これが全くない場合も含め,被告標章5と原告標章が類似しているといってよいことは,上記ウ, エで説示したところと同じである。
カ  以上のとおり,被告標章は,いずれも原告標章と類似しているものと認められる。
 
(4) 商品の混同を生ずるおそれの有無
 以上のとおり,原告標章と被告標章は類似しており,原告標章を付した原告商品と被告標章を付した被告商品はいずれも一般消費者を需要者とするロールケーキという点で共通しているだけでなく,両商品の販売価格はほぼ一緒であるから,被告商品を販売する行為は,他人である原告の商品と混同を生じさせる行為であるということができる。 ・・・」
 
【コメント】
 報道でも少し話題になった堂島ロールの表示の事件です。かれこれ一ヶ月近く前の判決なのですが,何故かサイトへのアップは遅れて,近々の話になっております。
 
 さて,原告の堂島ロールの表示は以下のとおりです。
 
 この外にも,標準文字のものやイラスト付きのものもあり,さらには,上記標章にて,商標権も取得しております(商標登録第5446720号)。
 
 他方,被告側の堂島プレミアムの表示は以下のとおりです。
  
 これ以外にも,社名の堂島プレミアムと二段重ねした
  
 こういうパターンもありました。
 
 で,結論は上記のとおりです。判断の規範となった最高裁の判決(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁)は,日本ウーマンパワー事件としてよく知られているものです(商標・意匠・不正競争判例百選なら,70です。)。
  
 基本的には,商標の氷山事件の流れを汲むものです。
 
 ただし,商標法と異なり,不正競争防止法の2条1項1号の周知表示混同惹起行為については,混同も要件の1つとされております。
 実は,上記の日本ウーマンパワー事件は,その「混同」の解釈についても判示があるのですが,本件での「混同」は大した判示はありません。 

 さて,この判決ですが,要するに,「堂島ロール」と「堂島プレミアムロール」は似ていると判断したわけです。
 商標の審査基準において,昔から廃れずに書かれている,類似の例,「スーパーライオン」と「ライオン」のことを考えると,質を表す語を付け加えただけでは類似の範囲からは逃れられないという結論は致し方ないと思えます。

 ということですので,知財高裁に仮に行ったとしても(不正競争だから大阪高裁でもいいのですね。),結論がひっくり返ることはないと思います。