2018年5月10日木曜日

審決取消訴訟 特許   平成29(行ケ)10202  知財高裁 不成立審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年4月27日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部                        
裁判長裁判官          高      部      眞  規  子                                  
裁判官          古      河      謙      一                                
裁判官          山      門              優 
 
「 1  前訴判決の拘束力について
⑴  特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,再度の審理,審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,容易に発明することができたとする審決の認定判断が誤りであるとして審決が取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されない。したがって,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。
⑵  これを本件についてみるに,前記第2の4⑵のとおり,前訴判決は,①「取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明1に周知技術2を適用し相違点2に係る本件発明の構成の容易想到性を認めることはできない,引用発明1に甲4技術を適用しても相違点2に係る本件発明の構成には至らないとし,②「取消事由2(引用発明2を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明2に甲4技術を適用する動機付けが存在することを認めるに足りない,引用発明2
に甲16及び甲26の構成を適用しても相違点8に係る本件発明の構成に至らないなどとして,引用例1又は2に基づいて容易に想到できるとした第3次審決を取り消したものである。
 したがって,再度の審判手続において,審判官は,前訴判決が認定判断した同一の主引用例(引用例1又は2)をもって本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かにつき,前訴判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは,取消判決の拘束力により許されないのであるから,本件発明は当業者が引用例1又は2から容易に発明することができたとはいえないとした本件審決は,確定した前訴判決の拘束力に従ったものであり,適法である。
 そして,再度の審決取消訴訟たる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証として甲114ないし118を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないというべきである。発明の容易想到性については,主引用発明に副引用発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断することとなるところ,原告は,第3次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において,引用例1又は2に基づく容易想到性を肯定する事実の主張立証を行うことができたものである。これを主張立証することなく前訴判決を確定させた後,再び開始された本件審判手続及びその審決取消訴訟である本件訴訟に至って,原告に,前訴と同一の引用例である引用例1及び2から,前訴と同一の本件発明を,当業者が容易に発明することができたとの主張立証を許すことは,特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復することになりかねず,訴訟経済に反するもので,行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし,許されない。  」

【コメント】
 本件は,「平底幅広浚渫用グラブバケット」とする特許権(第3884028号 )の無効審判の不成立審決に対する審決取消訴訟の事件です。

 とは言え,内容は純法律的な話です。特許の話で純法律的な話があるのは珍しく,私はあまり得意じゃありません。そういうのは,弁護士さんとか学者の先生の方が詳しいからです。
 
 ですが,知財高裁にもわざわざ要旨を掲示しているということがあり,つまりは重要だということなので,ここでも取り上げた次第です。
 
 問題となっている前訴判決の拘束力ですが,条文は以下のとおりです。
 
第三十三条 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」
 
 重要なことは取消し判決だということです。あと,拘束力の内容については,解釈に委ねられているということです。 
 
 で,通常,判決の拘束力というと,既判力ですが(確定していないと勿論だめです。),これは,条文があります。
 
(既判力の範囲) 
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。」 

 という,民事訴訟法114条1項ですね。ですが,これは主文にしか及ばないってことで,その範囲は狭いわけです。何と言っても当事者の紛争解決さえできればいいわけですから。
 
 これに対して,審決取消訴訟の前訴判決の拘束力はこれに比べると随分デカいのです。判旨にあるとおりです。やはり,当事者だけに留まらない影響があるからですね。
 
 ということで,何か補充の証拠を加えても,メインが同じならダメですよ,拘束力は及びますよというごくありふれた結果になったわけです。