2016年11月16日水曜日

侵害訴訟 特許  平成27(ワ)28468  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成28年10月28日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官東 海 林 保
裁判官勝 又 来 未 子
裁判官古谷健二郎は差支えのため署名押印できない。

「(1) 本件発明における「緩衝剤」は,添加されたシュウ酸またはそのアルカリ金属塩をいい,オキサリプラチンが分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当である。理由は以下のとおりである。
(2)ア 特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものとされているから(特許法70条1項),「緩衝剤」を解釈するに当たり,特許請求の範囲請求項1の記載をみると,緩衝剤について,「有効安定化量の緩衝剤」,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩」,「緩衝剤の量が・・・のモル濃度」である旨記載されている。
 上記記載を踏まえて検討するに,緩衝剤の「剤」とは,「各種の薬を調合したもの」を意味するから(広辞苑第三版。乙34),緩衝剤とは,緩衝に用いる目的で,各種の薬を調合したものを意味すると考えることが自然である。しかし,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸(シュウ酸イオン)は,「各種の薬を調合したもの」に当たるとはいえない。
 また,緩衝剤は「シュウ酸」又は「そのアルカリ金属塩」であるとされているが,緩衝剤として「シュウ酸アルカリ金属塩」を選択した場合を考えると,この場合,オキサリプラチン水溶液中には,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸と「シュウ酸アルカリ金属塩」が同時に存在するところ,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「シュウ酸アルカリ金属塩」に該当しないことが明らかであるから,緩衝剤はオ
キサリプラチン水溶液に添加される「シュウ酸アルカリ金属塩」を指すと
解するほかない。そうすると,「シュウ酸アルカリ金属塩」と並列に記載されている「シュウ酸」についても,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸を除き,オキサリプラチン水溶液に添加されるシュウ酸を意味すると解することが自然である。
イ 次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされているから(特許法70条2項),本件明細書の記載をみると,段落【0022】には「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」という記載があり,「緩衝剤」という用語の定義がされている。
 ここで,「緩衝剤」は,「酸性または塩基性剤」と定義されており,前記のとおり,「剤」は「各種の薬を調合したもの」であるから,添加したものに限られると考えるのが自然である。
 そして,オキサリプラチンは,次式の反応によりジアクオDACHプラチンとシュウ酸に分解する。
 
 上記反応は化学的平衡にあるが,証拠(乙35)によれば,平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液にシュウ酸が添加されると,ルシャトリエの原理により,上記式の右から左への反応が進行し,新たな平衡状態が形成されることが認められる。新たな平衡状態においては,シュウ酸を添加する前の平衡状態と比べると,ジアクオDACHプラチンの量が少ないので,シュウ酸の添加により,オキサリプラチン水溶液が安定化され,不純物の生成が防止されたといえる。
 ところが,シュウ酸が添加されない場合には,オキサリプラチン水溶液
の平衡状態には何ら変化が生じないから,オキサリプラチン溶液が,安定化されるとはいえない。
 したがって,上記明細書に記載された「緩衝剤」の定義は,緩衝剤に解離シュウ酸が含まれることを意味していないというべきである。
  ・・・・
(4) そして,被告は,被告製品にシュウ酸は添加していないと主張しているところ,原告は,被告製品に,構成要件G記載の範囲に含まれるシュウ酸が添加されている旨の主張はしていないから,被告製品にシュウ酸が添加されていないことについて当事者間に争いがない(前記第2,2(8)イ)。
 そうすると,被告製品は,構成要件B,F及びGを充足しない。
 よって,被告製品は,本件発明及び本件訂正発明の技術的範囲に属しない。 」

【コメント】
 オキサリプラチンの特許(特許第4430229号)に関する3つ目(恐らく)の侵害訴訟の判決です。
 
 クレームなどは,前の記を見てください。 

 1つ目と2つ目の判決とは被告が違います。しかし,結論は,2つ目の判決と同様です。
 まとめるとこんな感じでしょうか。
 
       
1 平成27(ワ)12416  46部 被告1 差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2 平成28(ワ)15355  29部 被告1 賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3 平成27(ワ)28468   40部 被告2 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
 
 46部はプロパテントないし,クレームは特許請求の範囲の文言忠実解釈派でしょうか。
 他方,29部と40部は,アンチパテントないし,クレームは70条2項に則り限定解釈派でしょうか。
 
 ですので,前にも書いたのですが,本当クレーム解釈って裁判官の胸三寸っていうのがよくわかります。
 
 しかし,こんなのでは,全く予測可能性がありません。
 あとは47部でも係属していると面白いのですが,いかがでしょうかね。