2017年7月28日金曜日

侵害訴訟 特許権 平成29(ネ)10009等  知財高裁 控訴棄却

事件名
 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年7月12日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦
 裁判官 大      西      勝      滋 
 裁判官  杉      浦      正      樹  

「ア  本件明細書2中の定義等について
 控訴人は,本件明細書2中の「緩衝剤」の定義(【0022】,【0023】)に従えば,「緩衝剤」は,「オキサリプラチン溶液組成物」において,所定のモル濃度で存在するもので,不純物の生成を防止,遅延するあらゆる酸性又は塩基性剤を意味するものであり,また,本件発明2におけるオキサリプラチン溶液の安定化という作用効果は,添加シュウ酸であろうと解離シュウ酸であろうと変わりがないから,添加シュウ酸と解離シュウ酸が「緩衝剤」の該当性において区別されることはない旨主張する。
 しかしながら,オキサリプラチン溶液の安定化の作用効果において,添加シュウ酸と解離シュウ酸が異なるものであることは,前記説示(原判決「事実及び理由」の第4の4(3)ウ)のとおりである。
 すなわち,オキサリプラチン水溶液においては,オキサリプラチンと水が反応し,オキサリプラチンの一部が分解されて,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸(解離シュウ酸)が生成される。その際,これとは逆に,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸が反応してオキサリプラチンが生成される反応も同時に進行することになるが,十分な時間が経過すると,両反応(正反応と逆反応)の速度が等しい状態(化学平衡の状態)が
生じ,オキサリプラチン,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の量(濃度)が一定となる。また,上記の反応に伴い,オキサリプラチンの分解によって生じたジアクオDACHプラチンからジアクオDACHプ
ラチン二量体が生成されることになるが,その際にもこれとは逆の反応が同時に進行し,化学平衡の状態が生じることになる。
 しかるところ,上記のような平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液にシュウ酸を添加すると,ルシャトリエの原理によって,シュウ酸の量を減少させる方向,すなわち,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸が反応してオキサリプラチンが生成される方向の反応が進行し,新たな平衡状態が生じることになる。そして,この新たな平衡状態においては,シュウ酸を添加する前の平衡状態に比べ,ジアクオDACHプラチンの量が少なくなるから,上記の添加されたシュウ酸は,不純物であるジアクオDACHプラチンの生成を防止し,かつ,ジアクオDACHプラチンから生成されるジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止する作用を果たすものといえる。
 他方,解離シュウ酸は,水溶液中のオキサリプラチンの一部が分解され,ジアクオDACHプラチンとともに生成されるもの,すなわち,オキサリプラチン水溶液において,オキサリプラチンと水とが反応して自然に生じる上記平衡状態を構成する要素の一つにすぎないものであるから,このような解離シュウ酸をもって,当該平衡状態に至る反応の中でジアクオDACHプラチン等の生成を防止したり,遅延させたりする作用を果たす物質とみることはできないというべきである(また,以上に説示したところによれば,解離シュウ酸が,平衡状態に達した後のジアクオDACHプラチン等の生成を防止し,又は遅延させるものともいえない。)。
 以上のとおり,オキサリプラチン水溶液中の解離シュウ酸は,添加シュウ酸とは異なり,ジアクオDACHプラチン等の不純物の生成を防止したり,遅延させたりする作用を果たす物質とはいえないのであり,そうである以上,本件明細書2の【0022】における「緩衝剤」の定義(「不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤」)に当てはまるものではないから,控訴人の上記主張は採用できない。 」

【コメント】
例のオキサリプラチンの特許(特許第4430229号)の事件,アグレッシブな原告さんのやつです。


 クレームももういいでしょう。このブログの過去の記事(http://chizaihanketu.blogspot.jp/2016/12/2729001.html)を見てください。 
 また,規範もあてはめも,これももういいでしょう。

 ということで,またまとめておきましょう。

 あと何件この関係事件を紹介するのだろうなあ。

1  平成27()12416   46部 被告1  差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2  平成27()28849  29部 被告12 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3  平成28()15355   29部 被告1  賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
4  平成27()28468    40部 被告2  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
5  平成27()12415    40部 被告3  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
6  平成27()28699等 40部 被告4~6 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
7  平成27()29001   47部 被告7  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
8  平成27()29158    40部 被告8  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
9  平成28()10031   知財高裁3部 被告1 請求棄却 被告寄りクレーム解釈  1の控訴審 
10  平成27()28467   46部 被告9  差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
11 平成27()28698  46部 被告10 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
12 平成27()29159   46部 被告11 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
13 平成27(行ケ)10167 知財高裁3部 不成立審決の取消し
14  平成28()10103   知財高裁2部 被告12 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  2の控訴審
15  平成28()10111   知財高裁2部 被告2 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  4の控訴審
16  平成29(ネ)10008 知財高裁2部 被告8 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  8の控訴審
17  平成29(ネ)10010 知財高裁2部 被告4~6 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  6の控訴審
18  平成29(ネ)10013 知財高裁4部 被告7 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  7の控訴審
19  平成29(ネ)10034 知財高裁4部 被告11 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  12の控訴審
20  平成28(ネ)10112 知財高裁3部 被告1 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  3の控訴審
21  平成28(ネ)10009等 知財高裁3部 被告3 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  5の控訴審